黄金蠱毒 第百二十八話
「協会からの政府への支援は三機関のパワーバランスの均衡を取り戻すのためのチャンスでした。
ですが、政府がそれを嫌がっているようで、あくまで協会側の親切心によるものであり政府側から要求した支援だとは言わないのです。
北側の戦況が芳しくなく、協会側も可及的に支援をしなければ業務に影響が出るという状況をうまく利用しているのです。
撤退の決定をしたのはヴィトー金融協会上層部ですが、事実上、商会も含めた連盟政府全勢力の撤退となるでしょう。撤退理由は個々に異なると思います。
おそらくクロエからも連絡が来ると思いますよ」
「商会は政府に金を貸さないのか? アイツらも相当カネ持ってんだろ。
カネの帳尻合わせるのが協会で、ぐるぐる回すのが商会なんだから、国家に貸し付けるぐらい余裕だろ」
「貸し付けはおろか、買うことさえ可能でしょう。
ですが、それでは商会の存在意義がありません。相対する者同士がいて、初めて商売は成り立つのですから。
互いに生業を分けることも同様であるので三機関独立の原則があり、それに則り三機関内同士での貸金業は金融協会の独占となっています。
それに、商会は所属商人を個人事業者として扱っているので、貸金業をする際に利息を一定にする必要は無く、個人の事業の強みである貸主との信用関係と実績が無ければ基本的に異常に高いのはあなたもご存じのはず」
「難しい言葉で煙に撒かれているような感じは否めない。元々金が無いのはわかった。
でも、動かしてる諜報部はクロエと一部の精鋭だけだとクロエ本人から聞いてるし、シバサキ軍団なんかこれまで一度も会ったことないぞ? どこにカネが飛んでったんだ?」
再び話し出したカミュをまたしても質問攻めにしてしまった。彼女への申し訳なさもだが、自分の無知さ加減にも情けなくなってしまった。
「私が言えるのはここまでです」
カミュは硬く腕を組み、目を深くつぶりついに口をつぐんだ。
だが、それは子どものように返された質問に嫌気が差したようではなく、これ以上は言うことが出来ない事があるという風だ。
「なるほど。そこまで、だな。そこまで言ってくれたなら俺もカードを出さなきゃな」
「何かあるのですか?」
「あくまで可能性。だが、その可能性がほぼ100パーセントかもしれないことだ。黄金は存在しない」
カミュははっと息をのんだ後、「それを既にご存じでしたか」と張り詰めて肺に溜め込んでいた淀んだ空気をため息で全て吐き出すようになった。
吐息で肩が大きく落ちると共に、組まれた腕がほどかれた。
「どうやら、あなたに隠し事をせずに本部へ帰れそうです。資金が底をついたというのは表向きです」