黄金蠱毒 第百二十七話
「予備が少ないとは思えないけど。
この前まで、少なくとも40年は大きな戦いは起きてないんだろ? 軍に回す資金が余って繰り越されて、他に補填されていてもおかしくないけど」
「そうでもないのです。
戦いが無いと必要性を見いだされないので、どこの自治領も軍縮の流れは強いのです。
さらに軍事予算は特殊で軍に回す費用は年度内に完全に、と言うよりもやや赤が出る程度に消費しなければ、自治領に課せられる翌年の様々な税率が跳ね上がるのです。
つまり、どこの自治領も軍に対する予算の残高は毎年ゼロ以下にしなければ運営が立ちゆかなくなるのです。貯蓄の概念などありません。
軍の規模が小さければ赤字も大きくならないので、痛手を少なくする為に軍縮はますます進みました」
「世間知らずで申し訳ないが、それは自治領の話だよな? 連盟政府自体の軍事費はどうなの? あるんじゃないの?」
カミュは自分の中で隠している何かがあることに俺が気づいているのを察してはいるようで、自らは言わないが察して貰う為にありとあらゆることに答えてくれた。
しかし、さすがに質問を繰り返しすぎてしまった。これではまるで誘導尋問だ。カミュもうんざりし始めてしまったようだ。
その質問を最後に黙ると、掌を口に当てて地面に視線を送った。そして、左右に動いた痕に、「少々ややこし話ですが、説明しましょう」と顔を上げた。
「連盟政府には二つの軍事費があります。一つは統合国防費で、もう一つは領衛費です。
連盟政府が確保しているのが統合国防費であり、各自治領が確保されているのが年間固定領衛費です。
連盟政府は軍事予算を組んでいますが、それ自体に統合軍はありません。連盟政府の軍隊は各自治領から派遣される軍で構成されます。
内乱対応などへの資金は連盟が確保していた統合国防費に加え、各自治領により確保された軍資金である領衛費からも捻出しています。
ですが、言った通り、昨今の戦争の無い状態により削減されていたのでどちらも多くありません。
集められた軍が統合軍と名前を改められないのは、“統合”と銘打ってしまうと統合国防費、つまり政府の負担割合が増えるのです。
それを防ぎ、何としてでも領衛費の割合を大きいままで済ませようという考えです。
守銭奴のようなやり方ですが、統合国防費はこれまでの多くない状態に加え相次ぐ分離独立による税収減の影響を受けさらに減少しているので仕方ないと言えばそうです。
ですが、一方の領衛費も節税のために削減されています。
エルフという外部勢力が接近してきたことで人類圏外への視線が強まったからこそですが、長年にわたる軍事費削減は内部の押さえ込みに目が行きすぎた連盟政府の愚策としか言い様がないですね。
ちなみに私たちがかつてやっていた職業会館での依頼への報酬などは統合国防費から運営資金が出されています。
数十年前の勇者バブルの頃ははぶりよくしていましたが、高齢化や惰性化、モチベーションの低下により依頼への貢献度や質が低下により依頼者の払い渋りも横行。
そしてついにバブルが弾け、勇者たちの突然の能力消失も起きました。
さらに最近は魔物も駆逐されつつあり、利益率の高い討伐系の依頼も減少傾向です。今後はますます減らされるでしょう。
まぁ、そのギルド制度ももはや前時代的な雇用システムなので、私たちには関係が無いと言えばそうですが。
とにかく何が言いたいのかというと、元手も少ないと言うことを理解していただければそれで結構です。
どちらもすぐに底をついてしまったので、内乱対応費用も特殊予備費から捻出することになりました。
そちらは人数も資材も大量に要求されるので当然資金は多く必要になります。よってこちらに回される資金は少ないのです。
諜報部を動かしたり、シバサキの連れてきた軍団の管理費だったりは決して安くありません。
さらに今私がここにいることで動く資金は、協会ではなく政府が負担しています」
「協会の支援金で協会を動かしてるのか。支援金額も相当なんだろ?」




