黄金蠱毒 第百二十六話
思うところは尽きないが、とりあえず共和国側に黄金が存在しないことを伝える必要はもうなくなった。
残すは連盟政府のクロエ、商会、協会、北公、それからベルカとストレルカだ。
最後の二人以外を集めてまとめて報告、と簡単にはいかない。
呼ぶのも手間がかかるが、集まればまた乱闘騒ぎが起きる。乱闘大好きなユリナはもういないが、誰が無駄な戦端を開くかはわからない。
というわけで、各個撃破、もとい各個それぞれに伝えることにした。
しかし、前三者は連盟政府側だが、まとめて一つとは言いがたい。
連盟政府三機関協力チームというのも表向きだけで、その内情はぎすぎすとしたそれぞれに相対する目的を持つものが蠢く、強欲と思惑の坩堝なのだ。
とはいえ、シバサキさえいなければ三人とも話は通じる。それぞれで対応して貰おう。
一番手が出るであろうユリナへの報告の重荷からの解放されたことにより、少しばかり気が抜けて家路に就く足取りは先ほどよりも落ち着いたものになっていた。
やがて家が見えてくると、玄関の前で誰かが待っていた。紺色のブルゾンとカーゴパンツに金髪ポニーテールの女が腕を組み、足を揺らして立っている。
それはどうやらカミュの様子だ。戻ってきた俺たちを見るや、顔を上げて遠くから駆け寄ってきた。
「イズミ、お話があります」
「急ぎ?」
「ええ、端的に申し上げますと、ヴィトー金融協会は撤退することになりました」
また撤退か。ユリナたちに続いていたので驚きは少なかった。
しかし、驚いたふりはするべきだった。カミュたちはユリナたちの撤退を知らない可能性があるからだ。
「理由を聞いていいか?」
驚いたふりこそできなかったが、ユリナの撤退を自ら口に出してしまうことは抑えられた。
「現在進行中の黄金捜索へ当てられていた資金が無くなりました」
カミュは間髪入れずに即答した。
彼女とは付き合いが長いので、性格的に誤魔化すのは下手くそなのだ。これほどわかりやすい反応は空気の読めない俺でもすぐにわかる。
俺はモガモガともだえ苦しむように誤魔化すのに対して、カミュはストレートな性格故に早口で直球になるのだ。
しかし、撤退の理由として用いられた資金という盾で何を隠しているのかまでは分からなかったので俺は色々と尋ねてみた。
「協会は人員も物資もそんなに送り込んでないのにどこにそんな金使ったんだ?
言い方は悪いが、カミュも連盟政府の面目立てるためだけにいるんだろ?
レアに頼んで移動魔法使いまくってこことサント・プラントンの本部を行き来してたのか?」
「私が連盟の面目のための協会からの人質であることは間違いないです。
ですが、マンパワーであることにかわりはありません。
私自身に直接の収支が無くても、私がここで動くために協会の誰かが動かなくてはならず、背後で資金が必ず動くのです」
「でもカミュ一人だろ? 確かに頭取の娘だから色々かかるんだろうけど、君自身は浪費家じゃないはず。君は強いし、自分の身は自分で守れるから護衛も付けていないし。
シバサキいるし、またピンハネされてんじゃないの?」
「そう言っていただけるのはありがたいです。が、その一人さえも維持するのが難しくなってきた、ということなのです。
私たち協会は分離独立、内乱鎮圧、共和国との和平交渉などで出費が多く、資金繰りが厳しくなった連盟政府へ援助をしている状況です。
突然始まった黄金探しは政府にとって想定されていないものだったので、年度初めに割り振られていた予算など無く、特殊予備費として確保されていた予算から調査資金を捻出していました」




