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黄金蠱毒 第百二十四話

 状況によって感情が左右にぶれている俺をユリナはちらりと見たが、特に反応はせずにソファへと向かい尻を落とすように座り込むと足を組んだ。


「ああ、そうだ。だが、私らが積極的に会わせたんじゃない。

 確かに、私らにはいずれ会わせる予定はあったが、それはどうしようも無くなったときの最終手段の一つのつもりだった。

 だが、センセェが自分から会わせてくれって言ってきたんだよ。

 保護してる最中にシバ……っとぉ、アレがセンセェに若返らせるとか何とか、意味ワカランこと抜かしてちょっかい出してただろ?

 そのあとにジューリアに頼んできたらしい。懐かしくでもなったんだろ。

 埒があかない黄金探しがダラダラ続いてたし、遅かれ早かれシンヤには会わせることになっただろうな。単にそれが早まっちまっただけだ。

 こちとら断る理由も無いし、本人の意思を尊重して黄金に近づけるなら会わせて然るべきだってことで、すぐに会わせたさ」


 言い終わると「ん」と唸りながら顎を動かし、ローテーブルを挟んで向かいのソファを指した。ソファはちょうど三人掛けできる大きさだ。座れというつもりなのだろう。

 俺とアニエスはセシリアを挟み込むようにソファに座った。

 するとユリナはローテーブルの上に置かれた受話器を取り上げ、「コーヒー四つと何か、ジュースもってこい。あるもんでいい」と低い声で言った。

 少し長い話になるようだ。受話器を投げるように置くとユリナは前屈みになりローテーブルの上の灰皿に灰を落とした。


「グラントルア共和制記念病院のホスピスまでポータル繋いで直接私が連れて行った。

 シンヤの表情はお前と会ったときよりもだいぶはっきりしてたぞ。相当嬉しかったんだろ。

 身寄りも無く、孤独に死んでいくだけだと思ってたところに、かつて愛した女が現れるなんて、嬉しい限りじゃねぇか」


 ユリナはそう言いながら少しばかり嬉しそうな顔をした。

 シンヤがエルメンガルト先生にむけていた愛は本物であることが分かり、そして、かつて長い時間を共にした親友の元気そうな顔を何十年かぶりに見ることができたのが嬉しかったのだろう。


「シンヤはそうかもしれないが、先生はショック受けてただろ。普通に生きていれば俺たちと同じくらいで、まだかなり年下のハズだぞ」


「最初はな。だが、それからも何回か、二、三日にいっぺんくらいで会ってる内に受け容れたみたいだ。

 事情を説明しなくても、シンヤが技の使いすぎでどうしてああなったかはわかったらしい。

 さすが、賢い人だぜ」


 ドアがノックされるとユリナは「入れ」といいながらソファの背もたれに寄りかかった。

 開けられたドアからはコーヒーの良い匂いがしてきた。ユリナの人間らしい反応と深く炒られた豆の香りで、ぴりついていた心が僅かにではあるが落ち着いた。


「はなっからエルメンガルトをシンヤの件で私らに肩入れさせてたのは事実だ。無いと分かったんだし今さらだろなんて言わねぇよ。悪かったな」


 フラメッシュ大尉ではない女中部隊の隊員が静かにコーヒーとジュースを置くと、セシリアがそわそわと動き出してチラチラと俺を上目遣いで見てきた。飲みたいのだろう。

 俺はコーヒーに手を伸ばすとセシリアは追いかけるようにジュースに素早く手を伸ばした。だが、アニエスはそれを眉間に皺を寄せて見つめていた。ジュースの飲みすぎを気にしているのだろう。


 口を付けると先ほどユニオンで飲んだものよりもだいぶ酸っぱかった。

 ユリナにも酸っぱかった様で一口飲むと首を下げてカップの中を覗き込むと「残ってるやつか、しゃーねーか」と顔をしかめた。


 二口目を多めに飲み、「先生もなかなか大変だな。アンタのせいでまた寿命縮んだな」とカップを口に近づけたままそう言うと、ユリナはカップを持ったまま止まって俺を見た。


「アレ? こいつぁ意外。怒らねぇのか?」


「怒ってどうすんだよ。どうせみんな、俺たちも含めてそれぞれに自分以外を出し抜こうと必死だ。

 こうやって報告してくれたのはまだマシなんじゃないのか?」


 ユリナは「笑えねぇな。ハナッから信用されてねぇのか」と笑うとカップを置いた。それに遅れて俺もカップを置いた。


「だが、それだけでよく黄金が無いって判断に至れたな」

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