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黄金蠱毒 第百二十三話

 違和感の正体はどこかで共和国の撤退を感じていたものだとユリナの一言で気がついた。だが、あまりにも突然であり驚いたことには変わりなかった。

 さらにその奥に在る撤退の理由に自分たちがたった今聞いてきた話が見え隠れしているような気もして、反応が出来ずにまごついてしまった。


 しかし、ユリナはそれに構う様子を見せず、窓を開けるとタバコをポケットから持ち出した。

 外から乾いた冷たい風が吹き込み、靴とズボンの僅かな隙間に潜り込むと足首にヒヤリとした感覚を与えた。


「ユニオンの連中がゴールドラッシュにいねぇわけだ。法律クソジジィもとんだタヌキ野郎でイケズだよなぁ。さっさと言ってくれりゃいいのに」


 タバコに火を付けて咥えると窓に寄りかかり、ガラスに後頭部を付け顎を上げて外の兵士たちを流し目で見つめながら煙を吐いた。

 煙はゆらりと上ったが、すぐに外からの風に散らされ、そしてクセの強いスパラティーボ・イスペイネの甘く焦げた匂いだけが残った。


「ちょっと待て、話が見えないぞ。何か聞いたのか?」


 話が全く見えない、というのは嘘だ。

 これまでの断片的な情報だけでユリナの話の全貌は充分理解することができる。

 ユリナは黄金など無いことに気がついている。黄金探しにユニオンがいない理由など分かっている。


 そこからユニオンの大統領であるルカスからマゼルソンが話を聞いているのだろうというのもユリナの一言でつながった。


 だが、俺はあくまで知らないふりをし続けた。

 何を聞いたことよりも、誰から聞いたのかが気になるのだ。


「エルメンガルトのババァが言ったことが気になって、マゼルソン問い詰めたらあっさり言ったよ」


 ユリナは俺の方へ視線を向けないが、まるで俺が何もかも知っているのではないかと思うような語り口をしている。

 だが、俺はそれでも「どういうことだ?」と分からない人間の焦りを装うような惚け方を続けた。

 反応を見たユリナは俺を二度ほど見て目を見開いて見つめてきた。


「あれ? お前らまだ聞いてねぇのか? センセェにゃしょっちゅう会ってただろ。

 まぁ、でもそうか、私らも知ったの最近だし、まだどこにも報告してないし」


「何をだ?」


 ユリナは壁から離れてデスクに向かうと、タバコを綺麗になっていた灰皿に押しつけガラスに焦げ痕を付けた。そして、「黄金なんか存在しない」とタバコをひねり潰した。


「おい、待て? 冗談だろ?」


 あまりにも気がついたタイミングの同時性が高すぎて驚いてしまった。

 冗談だろ、なんで知ってるんだよ、とまでは言いそうになったが、思った以上にはっきりした物言いに驚いたふりをする必要は無く、白々しくなりそうな返事は自然に途切れた。


 まさか俺たちがオージーとアンネリに会ってした話をどこからか聞いていたのか、と疑心暗鬼に陥りそうだ。

 だが、ユリナは俺たちが事実を知らない(あくまで知らないふりだが)ことに驚いた表情を見せていた。

 彼女は俺たちが誰か、例えばエルメンガルトから無いという話をすでに聞いているものだと思っていたようなのだ。


 おそらく、共和国は俺たちの行動を監視しそこで得た情報からではなく、共和国で独自の情報網から黄金が存在しないことに気がついた、もしくは知らされたのだろう。


「いや、無いらしい。

 エルメンガルトセンセェの話じゃ、ありとあらゆる文献をもう一度読みあさったが、王家の紋章だとか財宝の話はあったとしても黄金そのものに直接繋がるものは無かったらしい。

 スラング、暗号、回文、アナグラム……、様々な可能性を試してみたが、ビラ・ホラに黄金がある可能性は極めて低いそうだ。

 黙ってて悪かったが、実はそれを把握していたのはかなり前だ。言い訳がましいが、はっきり無いと確実に分かったのは一昨日の話だがな」


 同時ではない。始まったとき、つまりユリナがエルメンガルトと再会したあの直後には気がついており、黙っていただけのようだ。

 それ故にユリナはこれまで何度も思わせぶりな行動を繰り返していたのだろう。

 もはや、それもたった今の今に過ぎ去ったことではあるが、少々腹が立つ。俺はユリナに、


「共有されてない情報だな。

 エルメンガルト先生は随分あんたらに情報を与えてるな。シンヤに会わせたのか?

 そういや、あんたはエルメンガルト先生を動かす鍵になりうるシンヤが自分たちのテリトリーにいることは情報共有してなかったな。

 共有共有言っといて黙ってるのはタチが悪いとは思うが、死にかけのシンヤを騒動に巻き込むのは気が進まないから俺も何も言わなかったけど」


 と語気を強めて言い返した。

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