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黄金蠱毒 第百二十二話

 共和国軍の数ある基地の一つ、クライナ・シーニャトチカの外れにある大きめの基地にいるユリナから呼び出しがあり、今日中に来てくれとのことだった。

 焦りにささくれた状態での急ぎの呼び出しは、心持ちをますます逆立ててきた。


 だが、気持ちが落ち着くまでのんびり休んでいる余裕はないので、家に戻ることなく三人揃って村外れの基地入り口ゲートへポータルを開いた。


 基地内部は何やら騒がしく、共和国軍兵士たちは慌ただしく駆け回っていた。

 しかし、皆一様に走り回っているが、誰も武器は構えておらず時折笑顔を交えて話をしている兵士たちもいて、緊急事態ではないようだった。

 ゲートの傍では装甲車が横一列に何十台も並び、簡易の建物から運び出された大きな木箱が次々と積まれていく。

 その運転席の窓から顔を出し、ドアの前にいる別の兵士に話しかけている者もいる。


 建物の脇では、いつか見たクライナ・シーニャトチカの若い村長がフラメッシュ大尉にぺこぺこと頭を下げていた。

 最初の頃のこびへつらったり卑屈だったりする様子ではなく、無気力だった表情にも余裕が浮かんでおり、してもしたりない感謝を必死で伝えようとしている雰囲気で何度も頭を下げている。


 ユリナのいる建屋に行きノックをすると、開いてるから中へと入れ、とすぐにユリナの声がした。

 だいたいはジューリアさんかウィンストン、もしくはフラメッシュ大尉をはじめとした女中部隊員がドアを開けてくれるのだが、そのときは珍しく建屋の中にはユリナしかいなかったのだ。

 部屋は相変わらずごちゃごちゃに散らかっている。しかし、忙殺による怠惰から来る散らかり具合ではなかった。

 ちり紙やコーヒーの出がらしなどといった、ただ乱雑に置かれた物とは一目で区別できる明らかなゴミの類いはなくなっていた。

 不安定に積まれた書類の山などは見るからに減っており、足の踏み場も無かったはずの床が顔を出していたのだ。

 その様子のおかしさにぐるりと首を回して部屋中を見回してしまった。

 それにユリナは「女の部屋をあんまじろじろみんなよ」と気持ち悪いものを見るような顔をした。


「ゴミ捨て場からただの汚い部屋へ模様替えしたのを褒めてやろうと思ってな。何のようだ? あんまり緊急性はなさそうだし、疲れてるから早く帰りたいんだけど」


 違和感と嫌な予感、アンネリとオージーの話、それから単なる疲労など様々な要因で目に見えない焦りに追われてあまり余裕もなく、嫌味の混じったようなことを言ってしまった。

 ユリナは舌打ちをすると、「大した用じゃねぇ。報告だけだ」と言って顎先を動かし部屋全体を指し、足下の段ボールを軽く蹴った。

 そして、窓辺に移動すると「見てわかんねぇか?」と外で作業をする兵士たちを見つめた。


「私ら、撤退するわ。共和国軍の黄金探しは今日で終わりー」

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