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黄金蠱毒 第百二十話

「イズミくん、悩みは解決できたのかい?

 何を悩んでいるのかをキチンと聞けなかったうえに、君の様子は来たときよりも心ここにあらずになってしまったようだが」


 脇から出ていた嫌な汗は引いた。だが、自分でも分かるほど嫌な臭いがする。カタカタと膝下を動かすことを止めることが出来ない。

 顔のあちこちにも皺が寄っていたのだろう。オージーは何やら穏やかではなくなってしまった俺を気遣うように微笑みながらそう言った。


「少し、いや、疑問がかなり増えた」と顔を上げオージーの笑顔を真っ直ぐ見て、無理矢理に笑って見せた。


「それは申し訳ないことをしてしまったな。ボクは気がつかないうちに余計なことを言ったのかもしれないな」とオージーは悲しそうな顔になった。


 俺はとにかく二人を巻き込まないようにする為に、断片的なことしか伝えていない。親しいからと言ってあまりいい印象では無いだろう。

 だが、それでも二人は嫌な顔一つしなかった。申し訳なさがこみ上げてきた。


「いや、違う。すまない。今のは言い方が悪かったね。

 オージーもアンネリも悪くない。むしろ君たちの話を聞いたおかげで話をだいぶ進められた分、疑問も増えただけだ」


 アンネリはふーんと鼻を鳴らして、

「あっそ。でもさ、アンタ、ラーヌヤルヴィ一族にはホントに気をつけなさいよ?

 派閥は昔の話でもう関係ないけど、私と同じ広啓派一族で、その中でもさらに色々黒い噂絶えないのよ。

 ウチはとっくの昔に落魄れたけど、ラーヌヤルヴィ家はスヴェンニーなのに連盟政府でも何かと目立つ一族だったからね。

 なんか“極系広啓派(グーリヒア)”とか呼ばれてるし」

 と椅子を引いて腰をかけた。


「黒い噂? 例えばどんなだ?」


 俺はアンネリに尋ね返したが、オージーは顔の前で手を振り、喋ろうと身を乗り出したアンネリを遮った。


「ああ、イズミ君、気にしなくて良いよ。

 それに、アナ、その呼び方は下品じゃないか。

 内乱時にラーヌヤルヴィ家がしたことについてはあくまで昔話で、しかも噂に過ぎないだろう? それだけで決めつけちゃいけないよ」


「確かにそうだけど……」


 アンネリは眉間に皺を寄せると「でも、ホントに気をつけなさいよ!?」と念を押すようにそう言った。

 アンネリが食い下がらないような反応を見せたので、おそらく噂はいいことでは無いのはわかった。

 彼女たちが何をしてきたのか気にはなったが、俺はとにかくクライナ・シーニャトチカに戻りたかった。


「ぼちぼち戻ろうかと思うよ」


 カップを持ち上げて底に一センチほど残った冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、苦みだけが何倍にもなった黒い液体が喉を通った。

 アニエスとセシリアに目配せをして椅子から立ち上がり、壁に掛けられていた上着を持ち上げて帰り支度を始めた。

 突然いそいそと帰り支度を始めた俺たちをオージーとアンネリは首を伸ばして戸惑うように見つめてきた。

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