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黄金蠱毒 第百十七話

 アニエス、アンネリ、アンヤとシーヴ、それからセシリアが楽しげに戯れている様子をオージーと二人、テーブルに肘を突きながら黙ってぼんやりと見ていた。

 クライナ・シーニャトチカの小屋とは違い、入り込む砂粒や冷たい風を考慮せず設けられた大きな窓から望む雲の流れは穏やかだ。

 温かい時間がまったりと過ぎていき、コーヒーから立ち上りカップの縁で穏やかに渦を巻いていた湯気も少なくなり始めた。


 オージーは「それにしても、まさか、君たちに子どもが出来るまで進展するとはね。順調そうで何より」とぽつりと尋ねてきた。


「ああ、まぁな。

 だが、セシリアは俺とアニエスの子どもじゃない。俺たちもまだ籍を入れられる状況じゃない。

 民籍表(ライテレジスタ)のある連盟政府では俺たち二人は犯罪者。

 アニエスは北公の軍所属でまだ国自体が不安定で籍も曖昧。ユニオンでの戸籍はあるのかもしれないが、聞いたことがない。

 共和国には軍所属になったときに必要に迫られて作ってもらった戸籍があるが、アニエスの関係で色々厳しい。根無し草も良いところだ。

 入れられるものなら、な」


 オージーは付いていた肘を起こして身体を伸ばした。そして、ゆっくりと目を見開くと、俺を見つめて瞬きを繰り返した。


「何だよ?」と視線を見返すと「いや……そうか。別に」とだけ姿勢を伸ばしたまま言った。


 アニエスとの関係が以前のような絶妙に遠い距離感だと思って俺をからかおうとしたのだろう。

 俺が冷静にアニエスと籍を入れることを言ったのが彼にとって予想外だったようで少し驚いたように笑った後、なるほどね、そっかそっか、とつぶやいた。


「だが、君たちはそれで大丈夫なのかい? それに、ホラ、アニエスさんも焦ってるんじゃないのか?」


「俺にもアニエスがいないと困る。事実婚状態だな。俺も焦らせないようにはしてるけど、わからないよ」


「それに今は何してるんだい? だいぶ音沙汰無かったが。ルカスさんも心配してるみたいだ」


「さっきも言ったが、俺たちは今黄金について色々調べてるんだよ。で、ちょっと躓いてね。聞きたいことがあってきた」


 籍についての話は、正直あまり前向きにはなれない。

 入れたくないと言うわけではなく、入れるならしっかりとしたところで入れたいのだ。

 俺自身、甲斐性無しのような状態でもあることも大きい。


 またしてもモヤモヤとし始めたので少し話を逸らしたいと思い、本題の黄金の方へと話を逸らそうと試みた。

 また話題を変えてしまった。俺は先ほどから何をやっているのだ。


 だが、何やらオージーは態度を変えて「ふむふむ、黄金か」と口を押さえながらテーブルを見ると、椅子に座り直して背筋を伸ばした。

 理由は分からないが、話題を変えられたようだ。


 しばらくそうしていたかと思うとオージーは顔を上げ「アンネリはああ言ったが、君たちなら大丈夫だろう。実はね、ボクたちも金に関する研究をしているんだよ」と笑いかけてきた。


 ああ、なるほど。研究がらみだからか。研究の話になると見境が無くなるのは相変わらずだ。


「研究するのって、やっぱり金の持つ魔力絶縁性についてか?」


「うーん、まあ、そうだね。ボクたちの見つけたヒューリライネン法とも関係があるね。その研究の延長線上にある研究さ」


「ヒューリライネン法と魔力絶縁性……。わからんな」


 間の抜けた返事をすると「言っちゃいけない、ワケでもないか」と右下を見ながらつぶやいた後に

「ボクたちの編み出したヒューリライネン法は錬金術を応用して様々な金属の特性を持つ金属を作り出せるものだというのは知っているよね」と話を始めた。

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