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黄金蠱毒 第百十五話

 年代的に見れば、ほとんど神話でしかない数千年前の五大工による創世記に記されるような時期周辺に形成されたと考えられる白い山の歌(ヘスカティースニャ)に、なぜ旧スヴェリア連邦国衰退と連盟政府発足以降、つまりこの二百年前後に作り上げられたスヴェンニーをロバと表現するフレーズが入っているのだろうか。


「……黙り込んでしまったがどうかしたのかい?」


「いや、何でもない」


 何でもない訳ではない。最初に感じた違和感の正体が分かり、疑問が増えてしまった。

 口元を抑えて視線を右下や左下に泳がせた後、右肘を机に突き顔を上げて眉を擦るようにすると、その指の隙間からオージーが困ったように笑いながら俺を見つめているのが見えた。

 俺はだいぶしかめた顔をしていたようだ。


「友人としては話してほしいものだが、どうもそういうわけにはいかなさそうだね」


「すまん。コトが済んだら話すよ。君たちを信用してないわけじゃ無いんだ。

 ただ、何をどこから話し始めたら良いのか、まとまってないんだ。どれが真実なのか、とか」


 それにここで何かを言ってしまえば、またこの二人を巻き込むことになる。

 やっと家族揃っての安住の地に辿り着いたというのに。これ以上水を差すわけにはいかない。


 オージーは「うん、そうか」とだけ言うと、微笑みを浮かべたまま黙り込んだ。

 カルデロン別宅の広いダイニングが静まると、遠くの船の汽笛が聞こえて窓ガラスを揺らした。

 さらにそれが静かになると様々な音が聞こえ始めた。

 双子の楽しげに笑う声、賑わう街の雑踏や車の走り抜ける音がカーテンを揺らす海風に乗って聞こえてくると、クライナ・シーニャトチカとは違った活気と温かみのある静寂に包まれた。

 しかし、聞こえてくる音はただの雑音であるはずなのに、その全てに何か意味があるのではないのかと勘ぐってしまい、落ち着きが無くなりそうだった。


 テーブルについていた指をカタカタと弾くように鳴らしてしまった。


「そういえば、今何の研究してんだ?」


 これ以上、白い山の歌(ヘスカティースニャ)について尋ねると、またしても疑問が増えてしまいそうで、俺は耐えきれずに話題を変えた。


 セシリアが飽きてしまっていないか、ちらりと彼女の方を見た。

 ジュースを飲み終え、口周りをピンク色にしたセシリアはアンヤとシーヴを興味深そうにまじまじと見つめている。

 袖で口周りを拭こうとしたので、俺はそれを軽く押さえてナプキンを探した。


「あんたたち部外者だもーん。教えなーい」


 アンネリがそう言って立ち上がると、セシリアの口を拭いながら、「気になる?」と尋ねていた。

 セシリアは顎を引いて上目遣いになり、アンネリの左右の目を交互に見た後、小さく頷いた。

 すると、アンネリは俺の膝の上にいたセシリアをひょいと抱き上げて、「よいっしょ、大きい子はやっぱり重いわね」と言って鼻をつんとつついて、双子のもとへと向かった。

 さすが、現役経産婦だ。セシリアが全く泣き出さずに大人しく初対面の人に抱っこされている!


「はいはい。二人ともユニオンお抱えの一流の研究者だもんな。興味本位で聞いたみたいなもんだ。だから好きにやってくれ」


 アンネリは秘密にしたが、オージーは何やら話をしたそうに目を輝かせていた。

 だが、研究を盗まれたり、ノートを隠されたり捨てられたりするというのは大学勤務の時代にはよくあった。

 大学は肩書きだけの博士号量産機関に成り下がり、大した研究をしている大学など一握りだったというのに、それでも院生や教職員同士で足の引っ張り合いをすしていたくらいだ。

 ここではもっとシビアなのだろう。二人の研究についての話題も止めることにした。


「そういえば、オージー。確か移動魔法が使えるマジックアイテム持ってたよな? 何か言われたか?」


「カルデロンの方からしばらくはユニオン内部でも使うなって釘を刺されたくらいだね。

 念のために、商会の出入りがゼロでは無い友学連首都ストスリアにも行くなって。

 何やら、軽くしか聞いていないが、商会が移動魔法に関係する悪法を成立させたらしいな。

 彼らが全て管理するとかしないとか」


「不便か?」


「いんや、移動には困ってないさ」


 そう言いながら手首に付けられたグリューネバルトに貰った移動魔法の込められているマジックアイテムをいじった。

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