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黄金蠱毒 第百十四話

 ダイニングに座ると、別宅使用人がすぐさま湯気の立つ温かいコーヒーを出してくれた。

 北公の出がらしのような(文化的に豆は乾かして三回淹れるらしい)ものではなく、久しくまともなコーヒーが出されたので芳醇な香りを楽しもうかと思い、立ちこめる空気を肺に満たそうと吸い込もうとした。

 そこへオージーが落ち着き無く椅子を動かしてテーブルに身を乗り出した。


「そういえば、さっきキューディラで聞きたいことがあるって言ってたが、なんだい?」


 差別的なことを聞くかもしれないと思っていたので、いざ面と向かうと聞きづらさがあり、どうやって切り出すか悩むんでいたが、オージーのほうから話と話を切り出した。


「ああ、それなんだが」と一度詰まったが、二人は興味深そうに俺に耳を向けている。

 あまりにも真っ直ぐ見つめてくるので、視線を合わせているのに負けてしまいコーヒーに目を落とした。

 これ以上黙っていると、隣のアニエスに脇腹を小突かれてしまいそうだ。

 膝の上によじ登り座ったセシリアも俺を伺うように首を倒して見上げている。


「君たちがスヴェンニーだからあまり突っ込んで聞くのは忍びないんだけど、スヴェンニーってよくロバに例えられるよな?」


 オージーは少し驚いたようになったが、すぐに笑顔になった。そして、


「確かにそうだね。もともと、頑固者がロバに例えられることからきているらしいんだ」


 と頷いた。するとそれにアンネリも続いた。


「そうね。私たちもいつぞやの件で詳しく知ったんだけど、身内に甘くて頑固者がスヴェンニーの特徴って言われてるじゃない? 私たちってそんな頑固かしら?」


 これまで仲間としての経験から、オージーもアンネリも頑固なところが無いかと言えば、無いと言い切れない。

 思わず黙って視線を泳がせてしまいそうになったが、すぐに他のスヴェンニーを思い浮かべた。


「確かに、ラーヌヤルヴィとかいうヤツはめちゃくちゃ頑固だった」


 すると、アンネリは顔をしかめた。

 俺が二人が頑固であると言うことを誤魔化したことがばれてしまったのかと思ったが、アンネリはしかめた顔でさらに身を乗り出してきた。


「え? アンタ、あのラーヌヤルヴィ家と繋がりあるワケ?」


 どうやら違ったようだが、ラーヌヤルヴィ家にという単語に反応していたようだ。

 予想外の言葉に反応したので「え? ああ、あのがどれかはわからないけど、そのラーヌヤルヴィ? かな?」と返事に困ってしまった。


「今、一緒に黄金について調べてる。

 共同ってワケじゃないが、北公とも一緒に調べてるんだ。

 それで、北公から来たメンバーの中にポルッカ・ラーヌヤルヴィってのがいた。

 最近見かけないから聞いたら、ムー……ソイツの上官に聞いたら、ついこの間、大怪我してノルデンヴィズに戻ったらしい」


 そう言うとアンネリはふぅんと鼻を鳴らして背もたれに寄りかかった。


「ラーヌヤルヴィなんて姓、そんないないわよ。肩書きみたいなのなんか言ってた?」


「偉大なる司法神の神孫にして名だたる広啓派錬金術師の名家、とか何とか言ってたな」


 その言葉にアンネリは口をへの字に曲げた。

 そういえばアンネリの旧姓のハルストロム家も広啓派だった。旧スヴェリア連邦の内乱はかなり陰惨を極めたと聞く。同じ派閥で何かを知っているのだろう。


 そして、「なんだかまた厄介そうなのと付き合ってるわね。あんたらしいわ」というと腕を組んだ。


「まぁ、いいわ。ロバの話だったわね。

 昔のスヴェリア連邦が潰れたときに連盟政府の前身の連中が私たちをロバみたいだって罵ったのが始まりみたいよ。

 その後も貧困でロバみたいに働かなければいけなかったってのもあるみたいだし、ラーヌヤルヴィ家の当主がスヴェンニーの神秘派を頑固者だ、ロバだと言ったからだ、とか諸説あるわね」


「あれ? もうずっと昔から、それこそ五大工の創世記くらいからそう例えられてたんじゃないの?」


「違うわね。スヴェンニーへのロバって言う揶揄は最近、って言ってもこの二百年くらいの話よ。

 言われ始めた時期は旧スヴェリア連邦国が無くなった辺りで間違いないわよ。

 今じゃ当たり前だけど、実はそんな古くないのよね」

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