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黄金蠱毒 第百十三話

 別宅のある高級住宅街はまだ都市化の波に飲み込まれておらず、かつての閑静な雰囲気を残したままだった。

 他の都市化高層化が顕著にもかかわらず、別宅一帯は古い伝統的な街並みが残されたままで、差が顕著になり高級感はさらに増幅されていた。

 後付けで設けられた駐車場に駐められている車も街中で多く走っているユニオンモートルの大衆車(ホワイトクラス)とは違って、グレークラスのルコガスタやディオメディア、ブラッククラスのアルバトロス、それから共和国製の名前を知らないが見るからに高級車が並んでいる。

 その前を通り抜けて着いた別宅の、おそらくアルバトロス以上のユニオンモートルの高級車が駐められている駐車場を抜けて、見覚えのある玄関を入るとオージーが出迎えてくれた。

(セシリアは車が好きなのか、興味津々で車の中を覗き込もうとして飛び跳ね、窓ガラスにおでこの丸と小さなもみじを二つ思い切り付けていた。……拭けばとれるから黙っておこう。雨も降るし、たぶん)。


「久しぶりだね。突然で申し訳ない」


「イズミ君、よく来たね。気にしないでくれ。ボクたちはいつでも歓迎するよ。まぁここがボクの家というわけでもないんだがね」


 左手を服に突っ込んで背中を掻きながら俺たちを歓迎してくれたオージーは相変わらずだった。

 バスコの研究所とカルデロンの別宅を行き来するだけの生活故なのか、身だしなみはぐちゃぐちゃだ。

 髪はボサボサで、スリッパから覗く靴下の親指はぼっこり穴が開き、親指の付け根まで見えている。

 だが、別宅のお手伝いさんがいるのでフロイデンベルクアカデミアの頃のサル○タケが生えていそうなほどの不衛生さは無かった。


 アンネリが何やら嬉しそうにしながら、


「三人でキョロキョロ街中見回しててさ、なんか、もうモンタルバンのイナカモンと同じ反応してたわよ。ケーブルカーの乗り方分からなかったんでしょー!」


 と俺たちを家に押し込んだ。


「う、うるせーな! 歩きたかったんだよ。前来たときの雰囲気が完全に無くなってたからな」


 ケーブルカーに乗った方が速かったが、駆け込むにはセシリアが幼すぎて危ないかもしれない。

 それに街を歩いてみたかったのも嘘ではない。

 乗り方も行き先も分からなかったのも事実だが、田舎者と馬鹿にされたのが悔しい。


「ははは、確かにそうだね。この短期間でラド・デル・マルは目を見張る速さで発展したからね。

 驚いたり寂しいと思ったりするまもなく、昔の様な街の風景はなくなっていったからね。

 もちろん、イズミ君がいた頃ともね」


「そんなのはどうでもいいのよ! それより、見て、オージー! この子! イズミの子どもだってさ!  超かわいくない!?」


 初対面の女性に口を歪めて不安な表情をしているセシリアの肩をアンネリがそっと押してオージーの前に突き出した。

 オージーは屈んでセシリアに目線を合わせると、「こんにちは」と挨拶をした。セシリアは困ったような顔で俺とアニエスを交互に見た後、小さな声でこんにちぁと言いながらたどたどしく頭を下げた。


 オージーはそれに微笑み返すと立ち上がり、「確かに可愛い子だね。しかし、どこかで……」とセシリアを見ながら首をかしげた。見覚えがあることに気がついたのだろう。


「その通りだ。片が付いたら全て話す」


「なるほどね。アンヤとシーヴも大きくなったよ。とにかくコーヒーでも淹れようか。

 セシリアちゃんはジュースで良いかい? サクランボの美味しいジュースがあるんだ」


 サクランボのジュースにセシリアが反応して目をまた輝かせた。ちらりと俺を見上げたので貰うことにした。


「のんびりはしてられないけど、折角だしいただこうか」


 そう言うとセシリアは顔をほころばせた。

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