黄金蠱毒 第百十二話
すこぶる仲が良いスヴェンニーと言えば、あの二人しかいない。
言わずもがなオージーとアンネリだ。
ここ最近は行動を共にしていた頃に比べて会っていないが、いつ以来だろうか。思い起こせばおそらくユニオン独立以来だ。
ベルカとストレルカをスヴェンニーのオージーとアンネリに合わせるのは気が進まない。
ブルゼイ族とスヴェンニーという仲の悪い種族であるのもそうだが、初対面ともなると人見知りの激しいアンネリが何も言わなくなってしまう。
オージーとアンネリに会う機会が減ってからそこまで時間は経っていないが、短期間の間に様々なことがあった。
お互い募る話があるかもしれない――少なくとも俺たちにはある――ので、急ぎだとは言え長話をしてしまう可能性もある。
しかし、翌日まで待っているのも落ち着かないので、その日はベルカとストレルカとは解散し、ユニオンにいるオージーとアンネリのもとへ訪れることにした。
キューディラでの事前の連絡はしていない。商会が傍受している可能性が高いからだ。
移動魔法でこっそりとラド・デル・マルの周辺まで移動して、そこから二人に連絡を入れることにした。
ポータルは以前ヤシマが出入りしていた辺りの茂み――だったはずの場所に開いた。
しかし、何もなくやたら大きくて派手な鳥と昆虫だらけの茂みに出るはずが、目の前には覆輪目地に積まれた真新しいレンガ作りの壁が現れたのだ。
流れてきた話でユニオンは建物が増えたと聞いていたが、まさか既にそこまで建物が迫ってきているとは思わなかった。
数メートルほどポータルをずらし、改めて路地に出た後、光の差す方へ抜けると大通りにでた。舗装がされ街灯まであり、行き交う大量の車と人の波に驚かされ、改めて発展していることを実感した。
アニエスもセシリアも、ラド・デル・マルに訪れたのは初めてだ。すっかり変わってしまった街並みに俺自身も初めて来たのではないかと思ってしまうほどだった。
オージーとアンネリに連絡を取ると、運良く時間が空いていたので早速会うことにした。
見慣れない街並みを見て回りたいという好奇心もあった。約束の時間までも少し時間があり、時間が許される限り歩いて二人のいるカルデロンの別宅に向かうことにした。
噴火の影響はもうほぼ無く、天気もよく晴れていたので、別宅に向かう途中にある下り坂でラド・デル・マルの海までの眺めを見ることができた。
八階建てで当時は最高の高さがあったかもしれないあの失踪事件の起きたホテルは新しくできた背の高い建物に遮られすでに見えなくなっていた。
建物と建物の合間から見える海に、大きな帆船ではない船がいくつも見えている。
セシリアが興味深そうにまじまじと遠くの船に目を輝かせていたので船を近くで見せるために港まで行きたい、ところだが、さすがに観光ではないので我慢して貰うことにした。
下り坂はメインストリートであり、そこは以前よりもさらに拡張されており、さらにケーブルカーか何かのの併用軌道まで出来ていた。
しばらく待っていると、一両の車両が陽炎の揺れる坂をがたがたと音を上げてゆっくり上がってきた。
その光景はまるでサンフランシスコのようだった。
三人揃って物珍しそうにキョロキョロと首や目を動かして田舎者丸出しで歩いて行くと、遠くに見えた途中の角で誰かが俺たちに手を振っていた。
ショートスカートで短い髪にクロシェの垢抜けた服装の女性は最初は誰だか分からなかったが、近づくとすぐにアンネリだと言うことに気がついた。
アニエスは北公軍の灰色の上着、セシリアは折りたたんで小さく縫い付けた赤黒いコート、俺は相変わらずのもっさりしたピーコート。
三人とも乾燥地帯の砂を付けたままで埃っぽく、地味でぼろい格好は華やかで近代的なラド・デル・マルの街中では浮いていたようだ。そのせいでアンネリは遠くから気がついたのだろう。
「なんか久しぶりね。野暮ったい格好……って誰その子!? あんたの娘!? にしては似ても似つかないほど美少女じゃないの! しかもかなりデカい! なに!? 隠してたの!? きゃああかわいいぃぃ」
セシリアほどではないが、人見知りが激しかった彼女はだいぶ人慣れしたようだ。
いつも通りの彼女だが、これまでとは違った印象になっていた。
一方の俺は、久しぶりに仲間に会えて照れくさいような感じもあって、アンネリに勢いで押されてしまった。
「お、おう。久しぶり。セシリアって名前なんだけど。
アンネリ、落ち着けって。この子、めちゃくちゃ人見知りなんだよ。あんまり突っ込んでいくなって」