黄金蠱毒 第百十話
「俺はちょっとばかし特殊で、人間だろうがエルフだろうが言語を全部同じ様に理解してる。
何を言ってるか意味分からないと思うが、お前らがブルゼイ語で喋ってる言葉も理解できる。
でも、自分が思ったとおりに話しているのが、どの言語なのかは分からない。
相手がブルゼイ族ならブルゼイ語になってるらしい」
簡単に説明したが、二人は口を開けて止まっている。
今や神話の中だけの存在になった上司、もとい守護者が俺に残したチートの一つだ。超常の力なので自分でもよく分かっていないが便利な能力である。
それを説明しようというのだ。自分でも分からないのが普通で、起きていることをそのままいうこと以外に出来ることはない。
ベルカは動き出したが、混乱したように身体をかくかくと動かしながら「ああ? なんだ? じゃ、お前の前でブルゼイ語で歌えばわかるのか?」と尋ねてきた。
「あんまり期待しないでくれ。
俺には全部同じに聞こえるから判別がつかないけど、ブルゼイ族の言語を聞くのはおそらく初めてだ。
直接的に何を言ってるのかは理解できる。
だけど、歌は言葉と合間に込められた意味が複雑すぎるから、簡単には理解できないかもしれない。
それは“白い山の歌”に限ったことじゃないんだ。どの言語でもほとんどそうなんだよ。
歌は理解出来る言葉の連結であっても、悲しい楽しい愛おしいとか、連なることで出来る間と流れには言葉の何倍も意味が込められてるからな。
メロディーのテンポが遅いだの速いだのも考えると話が進まなくなるから、それは無視だ。
それに、聴いた言葉の羅列を直接紙に起こしたとしても二重翻訳でだいぶ違うものになる。
俺が書いた時点で、俺の歌になっちまうんだよ」
それを聞くと、二人は合わせたかのようにはあぁーと喉の奥から漏れ出すような声を出して首を小刻みに上下させた。
ネコが宇宙空間を飛んでいるような顔をしている。
だが、気を取り直すと「ヤ・二ーョ・ヴェールゲン」と試すように切り出した。
「エト・スルャ・ミーニャ。
だが、音楽家とか国語の先生にでもならなきゃ日常で困らない。
コミュニケーションなんてのは非言語でほとんど情報伝達できるけど、言葉の壁が先入観になってそれを邪魔するんだよ。
何を聞いても分かるから先入観を全く持たなくていいってのは、結構、便利なもんではあるしな」
ブルゼイ語で言った言葉を理解したような反応を見せると、ベルカは肩を上げてストレルカの方を見た。ストレルカは両眉を上げて首をかしげている。
「とりあえず、分かるって事でいいんだな?」
一応の納得はしてくれたようだ。とりあえずそれさえ理解してくれれば何でもいい。
「ほらほら、さっさと始めるぞ」と二人を再び急かした。