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黄金蠱毒 第百七話

 俺は二人の言葉を聞いて言葉を失ってしまった。

 誰よりも敵対するただの妨害勢力としか思っていなかった二人組が、これまでの誰よりも建設的な提案をしてきたことに俺は驚きを隠せずにはいられなかった。


「守ってくれ。オレらの故郷を」


 動かずに目を開いたまま二人を見ていると、二人は表情を何やら真剣なものに変えてそう言ったのだ。

 これまでのような、口元だけをにやつかせて剣や大鎌をぎらつかせていた粗野な連中からは考えられないような精悍な顔つきであり、そこにはただ私利私欲が渦を巻くだけの浅はかさが全く見えず、ますます驚いてしまった。


 吹いていた風が一度だけ強く、二人の方から吹き荒れた。

 突然の突風は、廃屋に吹き溜まり渦を巻き、笛のような音を鳴らした。

 そして、朽ちた梁に力なく垂れ下がっていたボロ布を晴れた空に高く高く舞い上がらせて、一度太陽を遮り影を落とした。

 その影も地面にくっきりと浮かび上がり、降り注いでいた日差しの強さをより強調させていた。


 突風に今までの停滞をも吹き飛ばされ、心の上に分厚く覆い被さった砂埃さえも晴れ上がるような気がした。


「かっこつけんなよ。カネが欲しいだけのくせに」


 しかし、はいそうですねんじゃあいっしょにがんばりましょう、とは即座に言いたくない。

 それに、誰ももたらせなかった具体的な糸口をもたらしたのがこいつらだというのが腹立たしく、嫌味の一つでも言ってやりたい気持ちだった。

 そして、言ってはみたものの、口角が上がっているのは隠せていないのが自分でも分かる。


 セシリアを怖がらせたくない。だが、追われている状況からは早く取り除いてあげたい。

 それには黄金にたどり着くしかない。

 この二人組は俺の黄金探しにおける秘密の真の目的を知っている。その上で協力を持ちかけている。


「アニエス、どうする?」


 横にいたアニエスに尋ねた。すると、彼女はちらりと俺を見た後につんと口先を上げて、


「あなたは迷っているときに私に尋ねたりしませんよ。

 もう決まっているのでしょう? 私は反対しませんよ。

 でも、私よりももっと聞かなければいけない相手がいるはずです」


 と頷き、腕の中のセシリアを見つめた。


 アニエスにつられてセシリアを見ると、これからどういう風になるか、彼女もすでに分かっているのだろう。恐れおののいたように瞳を震わせている。


「セシリア、パパはこの人たちの協力が必要になるかもしれないんだ。

 だから、これから一緒にいる時間が長くなるかもしれない」


 セシリアは思った通りのことを言われてしまったようで、ついに泣きそうになってしまった。


「やっぱり嫌かい?」


 自分が頷かなければいけないような責任を感じているのか、ふるふると瞳を潤ませながら「どうしても一緒じゃなきゃパパもマ……おばさんも困るの?」と震えたかすれ声でそう尋ねてきた。


「困りはしないかな。

 でも、力を借りればセシリアも無理して歌を思い出そうとしなくて済むかもしれない。

 君のためだなんて言って、本当は自分のためなのかもしれない。

 でも、君がそれで少しでも楽になって欲しいとこの世界の誰よりも思っているよ。

 だから、もし、君が嫌がってもパパはこの人たちの手を借りる。そして、それでも君も困らない方法を全力で考える。

 セシリアもパパもママも、三人とも一番嬉しい方法をね」


「だれも私のそばをはなれない?」


「離れない。君と意見が違っても君は離さないよ。何度も言うけど、離さない方法を考えるから」


「やくそく?」と目の奥を見つめるように瞳を動かさず尋ねてきた。

 差し向けられた探るような、縋るような視線から目を離さず、「約束だ」とゆっくりと頷いた。

 嘘はつかないと通じたようで、彼女は、じゃあ、というように深く頷き返してくれた。


 俺は「我慢ばかりさせてごめんな」とセシリアに微笑みかけたあと、顔を上げて二人の方を振り向き睨みつけた。


「お前ら、ブルゼイ語は達者か? 話せるだけじゃなく読み書きとかも含めてだ」

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