黄金蠱毒 第百五話
「久しぶりだな。何だ? 早速邪魔しに来たのか」と尋ねると、ベルカは口を開けて間の抜けた顔をした。
しばらく黙ると「そうじゃねぇよ。もうしねぇっつったのに、なんでわざわざしに来るんだよ」と鬱陶しいものをあしらうように首を回した。
「じゃ何のためだ?
この子に負担をかけたくない。シバサキほどじゃないが、あんたらに対してもかなり恐怖心を抱いてる。また熱が出たら可哀想だ。用件が済んだらさっさと視界から消えてくれ」
実際のところ、この二人に対しては恐怖心は抱いているものの、なぜかシバサキ遭遇時のように視界に入った瞬間に熱発することはない。
だが、シバサキ以外の精神的な要因の蓄積も否定できないので、ストレスは取り除かなければいけいない。
ベルカは両腕を開くと残念そうに下を向いた。そして、あぁあぁとため息をつくと、近づこうとしたのか足を一歩前に踏み出した。
俺は咄嗟に空いている左手で杖を持ち上げて杖先を二人に向けた。
「おっと近づくな。攻撃はしない。
だが、それ以上近づいたらあんたらをサント・プラントンの大通りのど真ん中に送り飛ばす」
ベルカはすぐさま歩みを止めて、両手を挙げて驚いたようになった。
「つれねぇなぁ。まだ何しに来たか要件すら言ってもいねぇってのに。
つか、このタイミングで出てきたってだけでわかんねぇもんかな、フツー。ありがちな流れだろ」
ストレルカが「ホラ、どいたどいた。アンタの言い方じゃ誰でもビビっちまうンだよ」とベルカの肩を掴んで右に押し退けて前に出た。そして、仁王立ちすると腰に手を当てた。
「まどろっこしいやりとりは抜きだ。お前らの手伝いに来てやったんだよ」
俺はストレルカが何を言っているのか理解出来ず、杖を掲げたまま止まってしまった。
理解が追いついていないことに気がついたストレルカは口角を上げると、腰に当てていた右掌を天に向けて得意げになった。