黄金蠱毒 第百四話
最近は熱発することも減った。だからといって体調が安定したわけではないはずだ。
考えないようにしているが、セシリアはまたいつかの症状を呈するかもしれないのだ。
数ヶ月前、死にかけていたククーシュカの時間を戻したときから重篤な症状は無くなった。しかし、根本的に病気が治ったわけではない。
セシリアがかつて見せていた症状を再び呈することは絶対にないと言い切れないのだ。
発熱は疲労などの体調によるものも大きいが、メンタル面においても影響がある様子なのだ。
最初の集会でシバサキに会ったことで熱発し、それ以降は会話の最中に名前が出るだけで熱発を繰り返すようになった。
そして、とどめとなったのかシバサキによる誘拐の後はこれまでにないほどに高熱を出し、それも下がらず、唇は青くなり、脱水を起こしてしまうほどに汗だくになっていた。
看病しているときも俺がベッドから離れることさえも嫌がった。
このまま熱は下がらず最悪な結末が再び訪れるのかと一時は絶望までしたが、幸いにも二日ほどで熱は下がった。そして、少しやつれたが元通りにはなった。
万が一、次そのような事態が再び起きてしまえばいよいよ最後だと思い、それ以降はアニエスと話すときには彼の名前を出さず、出来うる限り遠ざけることを心がけた。
その甲斐あってか熱発の機会も減った。
セシリアをこれ以上大人たちのエゴに翻弄させてはいけない。だが、彼女を巻き込んだのは俺だ。
だから、彼女を守る義務がある。それにせめて嘘でも彼女を安心させたい。
俺はあえて黄金捜索を難航させて時間稼ぎをしようとしていた。
しかし、実際のところ、早く見つけてしまいたい。
現在ほぼ唯一の手掛かりである歌をセシリアが思い出すまで時間をかけるというのは、その長い時間ずっと彼女はあちこちから目を付けられ続けると言うことでもある。
一番理想的なのは、黄金など無いことが、セシリアの歌以外のヒントにより、はっきりと、誰もが諦めのつく目に見える形で、そしてすぐに分かることなのだ。
少し軽くなったセシリアを軽く揺すりながら背中を撫でた。そのまま歩き出そうとした時だ。首に回していたセシリアの腕がきつくなった。
「あぁあぁ、全く。べったべたに甘やかしやがってよぉ。オレたちゃ今すぐにでも思い出してほしいモンだ」
男の声がしたが、それが誰のものであるかはすぐにわかった。ベルカの声だ。
安心させるようにセシリアの背中をなで続けながら声の方へ振り向くと、これまで全くなかったはずの風が吹き始めたのだ。
隙間風が廃屋のボロ布を揺らして立てる奇妙な音に包まれながら、砂埃の合間で二人組はまるでその中から現れたかのように佇み腕を組んでこちらを見ていた。




