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黄金蠱毒 第九十八話

 ストレルカは壁から再び離れると、「だが」とこちらに向かってきた。そして、腕の中にいたセシリアに思い切り顔を近づけた。

 セシリアが眉を寄せて嫌そうな顔をすると、首を下げて少し離れて、


「チビガキ、覚えときな。

 親ってのは自分より先に死ぬかもしれない。それが当たり前のいつか来る不幸ってワケで、本来なら()()()()()幸せなモンだが、それでも親は大事にしな。見つけてくれてありがとよ」


 とセシリアの鼻先を人差し指で軽く小突いた。


 驚いた様子のセシリアは目を丸くして寄せたまま硬直している。

 だが、以前のように暴れ出したり泣きだしたりするような強烈な拒絶反応を起こす気配は全く無かった。


「ま、そうか。とりあえずここを出ようか。出たら好きにしろ。もちろん邪魔以外でな」


 二人を出すためにパイプ椅子から立ち上がり半開き状態だったドアを大きく開け、外へと導いた。


 ベルカは入り込んできた光に目を細めて「久しぶりのシャバだぜぇ、くぅーっ」と出口へ向かい伸びをした。

 その後ろでストレルカが「二時間も経ってねェよ」と無表情で言った。


 拘束室からとぼとぼと出てくるベルカとストレルカを見たウィンストンは飛び上がるほど驚いていたが、二人の扱いをどうするかについて俺はユリナから権限を与えられていたので、やや不満そうな顔を見せたが何も言わずに二人を見ていた。


 部屋から出ると早速、ベルカが「オレらの大事な荷物ァ、どこだ?」と見張りをしていた兵士に覆い被さるように尋ねていた。その兵士はベルカの影の中で身体を強ばらせながら困ったように俺を見てきた。


「すんません。こいつらの武器、返してやってください。

 扱いはユリナから好きにしていいって言われてるんで、ここで武器を渡してもあなたの問題にはなりませんよ。たぶん」


 苦笑いをしながら伝えると、兵士は「そ、そうですか」とまごまご視線を泳がせながら部屋の角にある棚を指さした。

 押収品と書かれた箱の横にシャシュカと大鎌が立てかけてあった。


 ベルカは「お、あったあった」とるんるんと軽い足取りで棚まで行くとシャシュカを持ち上げて上機嫌になった。

 シャシュカを持ち上げて覆われていた布を取り、刃部を上に向けて光らせたり、柄を指でなぞったりして確かめた後に、再び兵士に「おい、チンチクリン。オレのシャシュカにいたずらしてねぇだろうな?」とメンチを切った。

 兵士は両手を前に突き出して首をふるふると振った。


「オイ、ベルカ、あんま脅すなって」と注意すると、こちらを振り返ってニタニタと笑った。

 ストレルカも大鎌を持ち上げると、兵士に顔を近づけてへへーっと歯を出して笑った。


「お前も! あぁ、もう、あいつら、ったくよぉ……」


 何をやってるんだか。

 さっきの件以外でまたすぐに共和国軍に拘束されてしまうのではないかと不安になってしまい、目をつぶって額を擦ってしまった。

 そうしているとウィンストンが側に来て肩を叩いてきた。


「随分楽しそうな声も聞こえておりましたな。彼らを逃がして良かったのですか?」


「大丈夫です。あいつらはもう邪魔はしてこない」


 ベルカは戻ってきたシャシュカを嬉しそうに振り回している。

 だが、次の瞬間、棚に肘をぶつけて思い切り倒したのだ。他の押収品が散らばったり、中にあった壊れやすい何かが割れたりとなかなかの惨事になった。

 ベルカは「あ、すまん」と言うと頭を押さえて兵士に笑いかけた。


「大丈夫、かな……。マジで」

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