黄金蠱毒 第九十七話
「ねぇときかァ」と言うと長椅子に寝転がった。そして、両手を頭の後ろで組みそこに頭を乗せた。
足の先を払うようにぱたぱたと動かし、
「どうもしねぇよ。オレたちはまたビンボー暮らしの再開だ。
ゴミ漁ってほとんどゴミみたいなモンだとか、誰かが盗んだモンをまた盗んで、それを売って喰ってくだけさ。あぁ、あーんま考えたくねぇなぁ」
と諦めたようになった。
「そいつは哀れだな。だが、なんだ、黄金があろうとなかろうと、とりあえず何かしらカネになりそうなモン一つくらい見つけて来てやるよ。
ビラ・ホラにたどり着ければ歴史学者が欲しがるようなモンがおそらくあるから、それでフロイデンベルクアカデミアとか相手にふんだくってカネにしてやるよ。期待して待ってろ。
見つけたものを隠すかどうかが気になるなら、俺たちから見えないところで尾行でもしてろ。
仮に見張ってても、邪魔さえしなければ出し抜くようなことは絶対しない。
だが、もし他の連中に俺の目的を言ったり邪魔したりしたら、お前ら素っ裸にひん剥いて縛ったままヒミンビョルグの上の方に放り出してやる。それか」
ベルカは身体を起こすと右手を挙げて言葉を遮った。
「あぁあぁ、うるせぇうるせぇ。それか、サント・プラントンの真ん中か、だろ。もうなんべんも聞いたぜ。
はっ、散々痛めつけられたのにオレたちを逃がしちまうような甘ちゃんが、そんなこと出来る根性も持ち合わせてねぇだろ」
ベルカとストレルカは嘲るようにそうはいったが、俺がそのようなことをする事態は訪れはしないだろう。この二人はおそらく、誰にも言わないからだ。
「ま、そうだな」と返事をして終わらせた。
「そういえば、返すの忘れるとこだ、ホレ」
俺はストレルカにブローチを投げ返すと、壁により掛かっていたストレルカは慌てて起き上がり「投げンなよ」と怒りながら右手でそれを受け取った。
そして、上着に付けるために襟の辺りを引っ張り始めた。
「それはトンボがモチーフか?」
「知らねェよ。そうなんじゃねェの? アタシにとってはコレはただの、唯一の親との思い出なんだよ」
「親は死んだのか?」
襟に付け終わると二度ほど上着を引っ張り、落ちないかどうか確かめている。
そして、「ずっと昔にな」と言いながら再び壁により掛かった。
「だが、ホントの親かどうかもわからねェ。
アタシは物心ついたときにはすでに育てられてて、少ししてからベルカが拾われた。
アタシら二人を必死で育ててくれたさ。いつ死んだか忘れたが、十を超えたかそのくらいに死んだ。
アタシらを飢えさせるわけにはいかないって、食べ物はほとんどアタシらに与え続けて、自分はほとんどなんにも食わずにガリガリにやせて死んでった。
必死になって育ててくれた事にゃ大いに感謝しちゃいるし、血がつながってなかろうとも親だって呼ぶにゃそれだけで余るくらいに充分だ。
だが、まともに生きていくのも大変なガキだけが残るようなコトしやがッて、無責任で迷惑な親だぜ」
悪態はつきつつもストレルカはブローチを懐かしむように人差し指と親指で摘まんで動かした。
「お前らは親孝行してるな。親の託した願いを背負って、こうして生きてるじゃないか」
「黙んな。これまで生きるのがどれほど大変だったかなんざ、ころころと平和に生きてそうなアンタに分かるわけがない」




