黄金蠱毒 第九十六話
「残念だけど、何の進展も無い。
お前らがヒミンビョルグの山小屋に来たときからわかったのは、ブルゼイ語学の権威がここにいることぐらいだな」
何かを秘密にされていると思い殺気立つベルカと、言葉の嘘を見定めようとしているストレルカの瞳を交互に見つめながらそう答えた。返答次第では切り伏せられるかもしれないが、事実は事実なのだ。
二人は動かず、そのまましばらく俺を睨め付けていた。
気迫に押されて、セシリアのコートを握りしめる手に汗が溢れてしまい、彼女を抱きしめる力を知らぬ間に強めていた。
だが突然、ストレルカががくりと首を落とした。それと同時に拘束室の張り詰めた空気が萎んだ。
「どうやらマジみてェだな、こりゃ」
ストレルカの言葉に反応するようにベルカは眼差しを哀れむようなものへと変えていった。そのまましばらく口を開けて黙り込んだ。
顎に手を当てて擦り、そして視線を泳がせた後に頬を人差し指で掻いた。
気まずそうに口をパクパクと動かして空気をかんだ後に
「なぁ、おい、あんだけ人がドヤドヤ集まっといて何の進展もねぇとか……。顔ぶれもそれなりなんだろ? あぁ、どうかしてんだろ」
と絞り出すように言った。
山小屋でこの二人がセシリアを誘拐してから、相当な時間が経過したような気がする。いや、気のせいではなく実際に経過している。
捜索人数も増やした俺たちは、既に黄金の目前にいるとでも思っていたのだろう。あからさまにがっかりした反応を見せた。
だが、何度も繰り返すが、進展が皆無なことは事実であるのだ。
やれ諜報部だの、やれ選りすぐりの軍人だの、やれ商会のエリートだの、やれ協会の特殊人員だのと、立場も実力もあるのが集まるだけ集まっているにも関わらず、何の収穫も無いのだ。
あったはずの収穫も斯く斯く然々でなき物になっているし、何も言い返すことが出来ない。
あぁ、と吐き出す息に合わせて声を上げてしまった。
「ギスギスしてあってるピンキリの奴らを無理矢理束ねてるからな。
足並み揃うどころか、揃いも揃って足を引っ張り合うので精一杯なんだよ。いいだろ。放っとけ。その方がお前らにもチャンスは平等ってことだ。
そういうがお前らはどうなんだよ? 何か知ってんのか?」
「知るワケねぇだろ。アドバンテージがあるとすりゃ、ブルゼイ族だってことくらいだな」
「なら人のこと言えないな。探してんのにヒントを見つけてないなら一緒だろ。
だが、まぁ、何だ。とりあえず伝えたからな? もしものときの身の振り方ぐらい考えとけよ?」




