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黄金蠱毒 第九十四話

 拘束室の前室では見張りの若い兵士とウィンストンが何かを話している。

 兵士とウィンストンのバスバリトンの声が話しているのがもごもごと聞こえるが、何を言っているかは聞き取れない。

 その様子ならこちらの会話もどうやらあちらには聞こえないと思ったので、俺はベルカに近づき囁いた。


「お前らは戦争だの技術だのでギラギラしてる他所と違って、生活のためとか言う規模の小さい目的のためみたいだから本当のこと教えてやるよ。

 俺は黄金を見つけ出して、全部独占するつもりだ。いや、だった。

 だが、財産が欲しいからでも、軍資金が欲しいからでも、いずれは戦争に応用される実験のための材料が欲しいから独占するわけでもない。

 俺だけが最初に全ての黄金を見つけ出して、戦争の種にしようとしてる連中から遠ざけるためだ。

 もともとお前らブルゼイ族の物なんだろ? じゃあ、お前らが持ってどっか行けばいい。そうすればお前らは幸せだ。

 連盟政府に虐げられても尚ブルゼイ族だと宣言する、然るべき者たちが祖先の財宝を持つことに何の問題も無いはずだ。

 俺は、俺たち三人は生涯追われる身だがな。ま、でも、お前らも知っての通り、移動魔法が使えるからそれは気にしなくていいぞ」


 二人にはしっかり聞こえていたのだろう。ベルカは目を見開き、ストレルカは怪訝な顔で俺の方を見ている。


「さて、俺が言ったことを理解できたなら、お前らをすぐに解き放つ。

 だが、その代わり終わるまでは邪魔すんな。終わったら取りに来い。黄金はかさばるからな。持ってってくれておおいに結構だ。

 なんならお仲間のブルゼイ族でも集めて、みんなで仲良く運んでどっか行け」


 俺は杖を持ち上げると、二人の答えを聞く前に魔法をかけて錠を外した。


 ベルカは突然掲げた杖に驚き仰け反ったが、すぐさま腕でカチリと錠の外れる音がすると両手を挙げた。錠はスルリと腕から外れると、地面に落ちて乾いた金属音を立てた。


「お前、バカだろ?」


 ベルカは外れた腕を見て掌を閉じては開いてを繰り返して様子を確かめた後、椅子に腰をかけたまま俺の方を見た。


 抱き上げていたセシリアの抱きつく腕が心なしかきつくなったのを感じた。俺にとってもこれはある意味の賭けではあった。

 しかし、思った通り外した瞬間に襲ってくることは無かった。安心と賭けの勝利に緊張がほどけた。

 とはいえ思った以上に緊張していたようで脇の汗がひんやりし始めた。


 ベルカは俺の何かを汲み取ったのか、呆れかえったようにため息を漏らすと、

「オレたちがその財宝で戦争してる奴らから食料を買ったらどうするんだ? そのカネで兵器を買うぞ」

 と試すように尋ねてきた。


「好きにしろ。黄金は処理が面倒だ。

 発見状態そのままの形で手に入れて歴史的価値を吟味するなんて情緒のあるヤツは、少なくとも俺たちの周りにいる欲しがってるヤツの中にはいない。

 財宝じゃなくて鉱石だったとしても、冶金てのは錬金術で時短できたけど、その分結構高度な技術がいる。

 金の融点の一千六十四度まで釜の温度上げるのは、魔法使っても面倒くさいんだぜ? そもそも鉱石ただ溶かせば勝手に出てくるわけじゃないしな。

 何れにせよソイツらが望む形にするには時間がかかる。黄金をどうにかしようとしてる内に戦争は終わる。それか停滞するだろ」


「なんでそう言い切れんだ?」


「商会やらあちこちの組織の関係者に会ってきたが、戦争しまくりたい連中ばっかりってわけでもなさそうなんだよ。

 かなり大きな力を持つ連中の中でもそういう思考の奴らが少なからずいる。

 現状で、俺がどれほど強い魔法が使えても一人じゃどうしようもできない。

 それどころか、力を持っていても立場が無ければ、立場を持つ連中の操り人形でしかない。

 俺がしたいのは、そいつらがどっかに着地させてくれるまでの時間稼ぎでもあるんだよ」


「なるほど、それで独占して持って逃げ回って時間稼ぎするつもりだったのか。そんなに甘くねぇだろ。やっぱりバカだな」


 ベルカが笑っているとストレルカが部屋の隅から立ち上がり、足を引きずりながらこちらへと向かって来た。

 そして、ベルカの真横で止まると、


「だが、こいつァ、アタシらがその馬鹿げた思考に賛同しないワケねェと。オマケに恩まで着せられたワケだ。はい、いいえの前に外しちまいやがッた。

 暴れりゃあサント・プラントン直行なんだろ? 従うしかねェようだな」


 と右腕で左手首をさすった。

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