黄金蠱毒 第九十一話
戦いも終わり、女中部隊の宿舎でセシリアを三時間ほど寝かせると発熱も落ち着いてきた。
女中部隊の宿舎だけあって、熱が下がると同時に水分補給のための水を無言で素早く出してくれた。
スポーツドリンクのように少し甘みが付けられて美味しいようで、セシリアはストローで必死になってそれを飲んでいた。
捕まえられて閉じ込められているベルカとストレルカの扱いについては俺に任せてくれないかとユリナに掛け合ってみた。すると、意外にもあっさりと了承してくれた。
彼らは共和国にとっては黄金探しのライバルであるが、ユリナ個人では彼らに対してややこしい感情は特に持ち合わせておらず、尚且つもし今後妨害しようものなら彼女が実力で払いのけるつもりらしい。
と理由は聞いたが、基地に侵入したので捕まえたはいいがこれから彼らをどうするかは考えていなかったようでほとんど丸投げされた。
基地司令部の傍にある簡易拘束室に二人は閉じ込められている。
拘束室の作りは女中部隊宿舎とは違い大きめのプレハブ小屋で、監視も顔にニキビがあるほど若い共和国軍兵士が一人と緩く、逃げだそうと思えばいつでも逃げられそうなほど簡素な牢獄だ。
二人と面会するときにセシリアを預けるかどうかで悩んだが、彼女自身が付いていくと意思を示したので連れて行くことにした。
だが、その代わり俺は彼女を絶えず抱っこしていることにした。絶対にさせないが、万が一と言うことがある。
拘束室にはウィンストンも一緒に部屋に入ると言ってきたが、外して欲しいと頼んだ。
最初は安全上の理由で出来かねると断られたが、もう一度頼むと渋々了承してくれた。
コンクリートが打ちっぱなしの壁、ギンスブルグ邸にもあった強化ガラス、金属製のドアに昼白色の照明。
特に誰かを拘束する予定も無かったのか、倉庫のようにもなっていて端の方には金属製のラックに整然と段ボールが置かれている。
ガラス越しに薄暗い拘束室の中を見ると、ベルカは腫れた顔と砂だらけで長椅子に腰掛けていた。
先ほど蹴られた割りに意識はしっかりしていて、持て余しているかのような顔をして膝に肘を置き、合わせた掌の親指をすりあわせてその先を見つめていた。
時折痛そうに親指で腫れた顔を撫で、乾いて固まった砂をポロポロと落としている。
もう一人が見当たらないと部屋を見回すと、ストレルカは部屋の隅の暗がりで右膝を抱えてうずくまるように座っていた。
意識を失ったわけでもないのに、うなだれたままじっと動かないでいる。
ウィンストンに目を合わせて頷くと、彼は応えるように頷き、人差し指を動かして近くにいた兵士に指示を出した。その兵士は敬礼をすると、壁に近づきレバーを下げた。
レバーのバネの弾ける音がすると、ピーブ音が聞こえた。さらに天井で点いていた緑色のランプが赤に変わると、金属のこすれる音がした。
ドアのロックが解除されたようで、兵士がドアのハンドルにゆっくりと触れた。
そして、遮られた空気の流れが変わるような、鼓膜を揺らすような低い音がするとドアが開けられた。




