黄金蠱毒 第八十八話
「どれだけ筋肉があろうとも、関節がなければ動かねぇ! 宙に浮いたばねは伸びねぇからな!」と大鎌の刃を回し、柄をウィンストンの両ひざ裏に滑り込ませた。
そしてそのまま引っ掛け突入時の猪の如き勢いで投げ出された体を、掴んでいた柄を中心に回転させた。
ストレルカの踵が真上に来た時、柄の上で手を躍らせるとその踵は、体勢が崩れたウィンストンの胸部の上に来た。
そのまま振り下ろそうとしたときだ。
左にいたベルカがウィンストンの首元を狙い下から剣を振り上げていた。踵落としと剣で挟み込もうとしているようだ。
だが、ウィンストンは上体を大きく右に回し、右手をバスンと地につけストレルカの手から離れた大鎌をひざ裏でガチリと捉えた。
背筋まで僅か三横指の距離でベルカの尖れた剣を回避し、膝でつかんだままの大鎌の先をストレルカの顔目掛けて振った。
間一髪でその切っ先を回避したストレルカだが、大きく飛びのきウィンストンから距離を取っている。
剣を下から大きく振り上げていたベルカは両手が宙に浮いていた。
体勢を立て直したウィンストンは膝の裏の大鎌を掴み、石突をベルカのがら空きのみぞおち目掛けて突き立てた。
パンっと大きな音がして石打がみぞおちに吸い込まれるとベルカは大きく後方に吹き飛んだ。
だがウィンストンは手加減したのだろう。大鎌を握る手の動きはピタリと止まっている。
突き抜けば間違いなくベルカの腹を石打が鈍かろうとも容易く貫いていただろう。
ウィンストンは、
「大鎌とは扱いにくいものですな。そもそもこれは武器ではないはずですぞ。死神でもあるまいて。
刃こぼれもすさまじい。これでは何も切れますまい」
と左手で大鎌を持ち上げて見回した。太い右手の人差し指で刃部を触ると、錆びた粉なのか赤黒く乾いた粉がパラパラと落ちた。
ベルカは埃の中で起き上がり、
「農民にゃそれでも贅沢なんだよ。
オレたちのような禁足地にすむブルゼイ族は連盟政府の民籍表がない。それがなけりゃ土地も買えない。
いつ追い出されるか分からねぇ、どこともしれねぇ場所で無法に育てるだけだ。
運良く収穫までこぎつけて売りゃあ、それでも買う奴がいる。ほとんどタダだがな。カネにならねぇよかマシだぜ。
そんなのを農民たぁ言わねぇだろ? つまり農民以下ってこった。
お陰様で随分前に辞めさしてもらったぜ」
としゃがれた声で言うと、膝をついて咳をした。
「農民は民草の胃を見たし、心身に幸福をもたらす国の礎よりも深い原動力のはず。
辛く泥にまみれる仕事だからと言って蔑むのは政府として未熟な証拠……。つくづく哀れな方々だ」
ウィンストンは深々と目をつぶり、大きく鼻から息を出した。




