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黄金蠱毒 第八十五話

 ウィンストンは雰囲気を明らかに変えて戦いに身を投じる者のような覇気を放ち始めた。

 しかし、堅牢な体つきの割りに情けない銃の扱いを見せつけられてしまい、おもわず彼が心配になってしまった。

 この間の乱闘でも、自分には術が無く、ただ力任せに暴れることしか出来ない、と言って何もせずただ見ているだけだった。

 まさか、優秀な人材を集めるのは得意だが、戦いそのものには不向きなのではないだろうか。


「あ、あの、ウィンストンさん、一人で大丈夫なんですか? 何なら俺も手伝いますよ? 二人には聞きたいこともありますし」


 不安になり尋ねると、「それには及びませんぞ」とウィンストンはいつもの調子で答えた。


「イズミ、ウィンストンに全部任しとけ。大丈夫だから」とユリナは後ろから言った。


「奥方様、ありがたいですな」とウィンストンがほころぶと、すぐさま「銃さえ触らなきゃな」とユリナがいたずらっぽく笑った。ウィンストンは眉を寄せて悲しそうな顔をした。


 俺が「でも」と食い下がると、


「老獪きわまるただの運転手に任せるのは不安がおありですかな? 先ほどの情けない姿を見られて、私が戦いには不向きだと思われたようですな」


 と右足を前に出し、膝に手を当てると腰を下ろした。何度か押した後、今度は左足でも同じことをし始めた。


「そう言うわけでは……。でも二人相手はどう考えても。それにあの二人はかなりの手練れですよ?」


 ウォーミングアップをしているのだろう。

 腱を伸ばすにつれて温まっていくウィンストンの身体は湯気が立ち上らせはじめた。早雪の寒さにあっても、放たれる熱量は凄まじいようだ。

 やがて離れた位置にいるにもかかわらず、その身体から放たれる熱気が額や頬の肌に当たり、じんわりと温められこちらまで火照り汗ばむような気がし始めた。


「40年前、橋での攻防のあとに――」


 一通りに身体を温め終わり戦いの準備が済んだのか、立ち上がると肩をぐるりと回して関節をならした。


「ブルゼイ・ストリカザをギンスブルグ家のお屋敷まで運んだのは、いったい誰だとお思いですかな。

 大学を出てまで軍に入りろくに活躍もせず、一族の恩義で執事になった庭いじりが趣味のただの運転手ではないのですよ。舐めて貰っては些か心外ですな」


 足を前に出し、ベルカとストレルカに向かっていった。

 その一歩はただの執事の足取りとは思えないほどに大きく、そして力強く、一歩一歩重心を深く大地を踏みしめる姿はさながら歩く大樹だった。

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