黄金蠱毒 第八十一話
そうこうしているうちに目的地に着いたようだ。ユリナの足はぴたりと止まるとこちらを振り向いて建物を指さした。
その建物は少し離れたところから見ただけではただの四角い簡素なものだったが、近くで見ると基礎工事までしっかりされてるものだと気がついた。
窓と空調設備が等間隔にパーティションで仕切られて並んでいる。その様子は軍施設と言うよりは居住可能な作りをしている。
再び歩き出し、入り口の庇の下まで来ると見張りの女性隊員が敬礼をしてドアを開けた。
隊員の服装は共和国軍の軍服ではなく、ギンスブルグ邸の女中部隊が臨戦態勢のときに身につける装備にデザート迷彩などの砂漠仕様を施されたものだった。
建物は立派であり、簡単に取り壊せるようなものではない。現地人との交流も積極的なまで盛んに行われているので、まさか捜索終了後この辺りに進駐軍の本営でも張るつもりなのだろうか。
怖くて聞けなかったが、間違いなくそのつもりなのだろう。
入り口から入ると広めのラウンジがあった。ユリナはそこで止まるとぐるりと全体を見回した。俺もそれに続いて中を見回した。
外と同じように簡素な作りだが、決していい加減な作りではなかった。
隙間があればどれほど小さくても砂が風と共に入り込むというのに、内部には砂粒一つ見当たらず清潔だ。
空調も効いているのか、外よりも暖かくそれでいて暑すぎない適温で調整されている。
湿度も維持されているようで外にいるときのような、乾燥で肌が縮むような感覚は無くなった。
「ギンスブルグ女中部隊の宿舎だ。空いてる部屋でしばらく休んでろ。
だが、イズミは気をつけろよ。
ウチの女中部隊は基本的にとんでもなく強い女しかいないし、覗きなんかしたらタダじゃ済まないぜ。
最悪、同性しかいないと思って上半身素っ裸で彷徨いてるヤツがいて、隠す前に手が出るだろうから、見ようと見まいと遭遇の瞬間殺されるかもな、はっはっは!」
それを隣で聞いたアニエスがムッとした。ユリナはそれを見てさらに笑った。
「んじゃー、私は仕事に戻るわ。顔見知りもいるだろうから、あとはそいつらに任せるわ。あん?」
開いていた寮舎のドアから男が恐る恐る顔を中に突き出し、何かを探しているように首を左右に回した。
そして、ユリナと目が合うと、あっ、と小さくこぼして首を後ろに下げた。
ユリナが顎を回すようにすると、その男は駆け足でユリナのすぐ傍まで来て背筋を正して敬礼をした。この男は共和国軍の軍服を着ているので軍人のようだ。
ユリナは近づいてきた軍人に、「何のようだ、伍長」と尋ねた。
すると伍長は背筋を伸ばしたまま、「はっ、厄介な連中が来ております」と答えた。
伍長の返答にユリナは眉間に皺を寄せて、腰に腕を当てた。そして、顎を突き出ししゃくるようにしながら「あ? 誰だよ?」と尋ねた。
伍長はそのままの姿勢で視線だけを動かすと、俺たち三人、特にセシリアをちらりと見た。