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黄金蠱毒 第七十九話

「セシリアが熱出してるんだよ」


 ユリナは俺の腕の中で顔を赤くして汗をかいているセシリアを見るとしかめた顔をした。


「またかよ。最近多くねぇか? キチンとしたとこで診て貰った方が良いんじゃねぇのか?」


「生憎、この世界の僧侶でも医者でもなんとかできるほど簡単なもんじゃないんだよ。

 エルフは科学の国だけどまだ医学の進歩は甘いし、人間に至っちゃ何から何まで治癒魔法頼みだ。

 そんなモン、()()()()()()()みたいなもんで医学ですら無い。

 それで治せなきゃ悪魔付きだとかで監禁されるか、ロボトミーとかされそうだ。

 元の病気もあるけど、メンタル的なものにもだいぶ左右されてんだ」


 ユリナは首をかしげると「元の病気? 何だそりゃ?」と尋ねてきた。


「遺伝性疾患だよ。あんたには通じるだろ? 元は日本人だし。

 何となく、学生時代の記憶で疾患の名前も見当が付く」


「オイオイ、大丈夫なのかよ。ザワークラウトばっか食ってから栄養偏ってんじゃねぇの?」


「最近は前に比べれば天気も良いけど、まだ早雪が終わったわけじゃない。保存食ばっかりなのは仕方ないだろ」


 口には出したくないが、セシリアの疾患が思っているもので正しければ決して軽い病気では無い。俺の表情で何かを悟ったのか、ユリナは眉間に皺を寄せると心配そうにセシリアを覗き込んできた。

 心配してくれるのは気休めにはなる。

 しかし、ユリナの心配していることは、おそらくセシリアが歌を思い出して最後の目的にまでたどり着ける体力があるのかどうかだけだろう。

 薄々と迫る()()の気配に俺も気がつかないわけもないが、出来る限り普通の子として育てたいので今は目を伏せている。アニエスも同じなのだろう。


 腕の中のセシリアは目を閉じて額に球のような汗を浮かべ、辛そうな低い寝息を立てている。時折、寝心地が悪そうにもぞもぞと動いた。


 セシリアはシバサキに誘拐されて以降、彼に遭遇しなくても熱発する機会が以前よりも増えた。

 そのときの発熱は遭遇したときに出る熱よりも軽度で大体は二、三時間で戻るのだが、その間は苦しそうで見ているこちらも辛くなるほどだ。

 それでもセシリアは銃の扱いについて習い続けると言い張った。


 今日もセシリアを預ける為に俺たちはジューリアさんのところへ向かい、東寄り村はずれにある共和国軍の基地にいた。


 ユリナは自ら指揮を執り、基地や拠点を知らぬ間にクライナ・シーニャトチカ周辺のあちこちに作りまくっていた。

 クライナ・シーニャトチカの村民の閉鎖的なムードは既に無く、共和国軍(連盟政府の先史遺構調査財団として)との取引や交流も盛んに行われておりすっかり受け容れられている。

 左遷されてきた村長も賑わいにほくほく顔だ。


 俺たちのいるところは、村内拠点、乾燥地帯の滑走路周辺、無人エリア北東村外れに続く四カ所目で、西側を見れば村の建物が見える場所だ。

 ジューリアさんは普段村内拠点や滑走路、村の北東の基地にはおらず、新たに作ったこの東側にいることが多いと聞いていたので向かったが、残念なことにその日は不在だった。

 その代わりにユリナがいたので、挨拶がてら顔を出していくことにした。


 ユリナは外で何かの指揮を執っていた。装甲車の前に置かれたテーブルを覗き込みであれだこれだと指を指し、紙を持ってきた士官がテーブルにそれを広げると覗き込んでいた。

 近づく俺たちに気がつき、作業を中断すると笑顔で迎えてくれた。


「だが、ちょうど今日はジューリアがいない。マリ坊の試験勉強の手伝いだ」


「マリークはもうお受験か?」


「いんや、まだだ。学校の試験だよ。

 でもなぁ、早いとこ、人間側の魔術系の名門校に通わせられるようにしてくれ。

 あるんだったら才能はできるだけ伸ばしてやりたいんだ。

 本人もお前みたいになるってモチベーションも高い。ヤベェ杖も貰ったことだしな」


「俺みたいになってどうすんだよ。無職でふらふら旅でもすんのか? 転生したら無職になった件。

 学校の件は確かにそうだな。力は持ってるだけなら邪魔にしかならない。

 ユニオンか友学連なら可能性はゼロじゃ無いが、現状はまだ厳しいな。ユニオンとの交流が盛んになれば共和国にも新設されるだろ。

 少数の魔術適性体質のエルフをエリート育成するために、金をかけて名門校が出来るだろ。わざわざ人間側から優秀な講師が招聘されてな」


「早いとこ頼むぜェ、フーテンのイズミさんよ」ユリナは肩を叩いてきた。


「で、今日はどうする? ジューリアいないんじゃ意味ないだろ? もう帰るか?」


「家に戻れば良いんだが、近くまで来て熱発したんだ。少し休ませてくれ。それにあんたらの現状も聞かせてくれ」


 そう頼むとユリナは親指で建物の方を指さすと、そこへ向かって歩き出した。


「付いてこい。ま、話すことも何にもねぇけどな。茶ぐらい飲んでけ」

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