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黄金蠱毒 第七十話

「コイツァ分が悪ぃ。どうやらその女がここでは最強な様だな」と右手でシャシュカを回し腰につけた装飾の施された鞘に滑らせるように収めた。

「なら話は簡単だ」と言うと同時に左右の足が一直線になるほど右足つま先を高く上げた。そして、すぐさま足の裏を地面に叩きつけ、さらに左足を軸に右足を大きく回した。

 すると、いつの間にか外から入り込んでいた足下の砂が、回転するベルカに巻き付くように一斉に舞い上がったのだ。

 砂埃は黄色く盛り上がりすぐさま廃屋全体に充満し、喉と鼻の奥に貼り付くような埃臭さと共に視界を奪った。

 あちこちで咳き込むような声がする中で「話はソイツがいねぇまた今度だな! あばよ!」と煙の奥からくぐもったベルカの声が聞こえた。


 ムーバリが咳き込みながらも槍を思い切り回して風を起こし舞い上がる砂煙を切り裂いて晴れさせたが、すでにそこにベルカの姿はなかった。砂煙に乗じて姿を消したようだ。


 砂煙が完全に無くなると共に、まるで乱闘騒ぎなど無かったかのように酒場廃屋全体が静まりかえり、俺がクロエにかけている治癒魔法の放つ、深夜の冷蔵庫から響いているような低く小さな音だけが残った。

 それにつられて争う者たちの猛りも治まっていった。カミュは床に倒れていたジューリアさんを右手で引っ張り起こし、ムーバリは槍を背中に再び背負った。


 静けさの中でも互いの険悪さの余韻だけが残り、このまま誰も何も言わずに時間が経つのかと思ったそのときだ。シバサキが手をすばやく叩き始めたのだ。


 全員が一斉に騒ぎ出したシバサキの方へ振り向いた。そこではシバサキが満面の笑みを浮かべて、両手を上下に重ねるように大げさに拍手をしていた。


「素晴らしい!」


 大声を上げると、揉み手のまま拍手を止めた。そして、


「いやいや、素晴らしいじゃないか! 今のようにチームワークを発揮すれば、どんな困難にだって打ち勝てるぞ! これは、イケる! これなら僕の黄金は戻ってくるッ! 実に素晴らしい!」


 と感慨深そうに目をつぶり両手を広げて天に上げた。


 突然起きたたった一人の歓喜に誰もがあっけにとられているのにも構わず、シバサキはさらに続けて


「やっぱり僕の黄金探しのフィクサーとしての判断は正しいものだったようだな。さぁ、みんな! シボラは僕たちを待っているぞ! 力を合わせて僕の為に頑張ってくれ! 任せたぞ! じゃあな!」


 と歓声を上げて大きく頷くと、くるりと足を返し酒場廃屋の方へと向かって歩き出した。その足取りは軽く、スキップでもしそうなほどである。そして、そのまま出て行ってしまったのだ。


 その後ろ姿を全員はただ追うように首を動かすことしかできなかった。


 クロエをそのままにしてシバサキは退場してしまったのだ。

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