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黄金蠱毒 第六十九話

 宙を舞う吸い殻はまだ長く、くの字に折れ曲がっている。吸い口には僅かな紅。

 まだ赤く光る吸い殻がウィンストンが咄嗟に取り出した灰皿の縁に当たり、脆い灰が砕けて飛ぶよりも速く、


「なぁぁぁっ!」


 と怒号が聞こえた。

 そのときにはユリナはすでにジューリアさんとカミュの間に前肢を突き出して割り込み、ストレルカの鎌の柄を思い切り蹴りとばしていたのだ。


 ストレルカはまるで鐘を突いた様な音を上げる強烈な蹴りを鎌の柄に受けたが、顔中に皺を寄せ歯を食いしばった。そして、右足を大きく後方に下げて踏ん張り衝撃を何とか持ちこたえた。

 しかし、防御に集中したせいで体勢は完全に崩れてしまった。

 柄に走る衝撃は掌に柄を食い込ませてなお痺れさせているようで、握る手が落とすまいと震えている。すぐに攻めに転じるのは不可能だ。

 ストレルカは大きな隙を与えることになったが、突然のユリナの乱入にカミュもジューリアさんも驚き目を見開いたまま止まっている。


「よく受け止めたなぁ! ボロボロの癖にかってぇ鎌だな!」


 だが、ユリナは止まらずに次のモーションへと移った。

 鎌を蹴った右足を曲げ、さらに軸足にしていた左足を折り曲げると、器用に身体を折り曲げて体勢の崩れたストレルカの下に入り込んだ。

 そして、僅かに足下が浮いていたストレルカの顎の下をめがけて拳を振り上げた。


 下顎の、オトガイのど真ん中にアッパーを喰らったストレルカは、拳に持ち上げられるようにオトガイを天井に向けて首を伸ばし、だらりと手を下げて宙を舞った。


「ブルゼイ族、一名様ご退場ォォォ! はっははァ!」


 ユリナはさらに追い打ちをかけるように、宙に完全に浮いているストレルカの腹部に回し蹴りをお見舞いし、後方の窓側に向かって思い切り蹴り飛ばした。

 無防備のストレルカは抗う術もなく、鎌ごと窓を突き破り外へと飛んでいった。どこまで飛ばされたのか、しばらくしてから何かの崩れる音が聞こえた。


「ストレルカ! クソッ!」


 ベルカははじき出されたストレルカを目で追った。


「私らは一つじゃないが、やり方は同じでクソなりにまとまってる。だが、あんたらは違う。そういうわけでもう一名様もご退場願おうか」


 ユリナは今度はベルカに狙いを定めて、彼の方へとつま先を向けた。

 ただのギャラリーでしかないと思っていたユリナから抗いようのない強烈な一撃が繰り出されたことにベルカは驚き、表情を引きつらせている。ユリナから視線を外せなくなっている様だ。

 二人はユリナの実力を完全に見くびっていたのだろう。


「まだ戦いの最中ですよ。よそ見は禁物!」


 その隙を逃さずムーバリはブルゼイ・ストリカザでベルカを真っ直ぐ狙った。

 だが、またしてもシバサキはムーバリの足を引っ張ろうとしていたのだ。いつの間にかムーバリの足下まで這って潜り込んでいて、文字通りに足首を掴もうとしていた。


「おい、ムーバリ! 足下!」と俺が咄嗟に叫ぶと、「分かってますよ!」と言うと同時にムーバリは掴まれそうになった右足の関節を曲げて器用に避けてシバサキの右手首を押さえ込むように踏みしめ、改めてベルカに向かっていった。


 一方のベルカはシバサキを除けることで増えたムーバリの動きの隙にシャシュカを左前腕部に乗せて滑らせ、槍を見ることなくその切っ先を受けた。

 左腕の関節を曲げながら、槍を受けたシャシュカの腹を左側に外転させて火花を散らしながらそれを躱すと、後ろに大きくすり足で後退した。

この戦闘シーンを書いてるとき、頭の中でロシア民謡の「カリンカ」がずっと流れていました。

カリンカはガマズミです。ユリナの杖もガマズミです。

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