黄金蠱毒 第六十七話
「ンなヤツいてたまるかよ! どうみても急所ブッ刺してんじゃねぇか! 誰だか知らねぇが哀れなオッサンだぜ!」
シバサキはしゃがれ声で「イテェ……。ふざけんなよ……、モットラ。お前後で覚悟しとけよ……」と言いながら咳き込み、大量に赤黒い血を吐き出した。
だが、急所を刺されたにもかかわらず死にゆく者の光のない眼差しにはならずにムーバリを睨みつけているシバサキの視線に、ベルカは再び驚いたようになった。
「オイ、マジかよ! あんだけ血ィ出しても生きてやがる! だがぁ」
しかし、すぐさま「邪魔モンは邪魔だァ!」と槍から離れたが貫かれた痛みと出血で足下がおぼつかないシバサキの尻を思い切り蹴り飛ばした。
シバサキは前のめりになり千鳥足でふらふらとどこかへ向かっていった。どこへ行くのかと目で追うと、今度はカミュとジューリアさんの方へと向かっていったのだ。
彼は不死身だが負傷すれば普通の人間同様に出血もすれば痛みも感じ、さらに意識も遠のく。彼女たちの方へと向かったのは自らの意思ではなく、ベルカが狙ったのだろう。
「邪魔です!」
血だらけのシバサキがふらふらとやってきたことに気がついたカミュは避けるのかと思いきやシバサキの襟首掴んだ。
そして、たぐり寄せるようにして前に突き出すと、ストレルカが振り回していた鎌の柄がシバサキの顎を強烈にぶつかった。
シバサキは鈍い音を響かせると赤べこのように首を小刻み揺らした。
治りかけの傷口から蕩々と流れ出る血と、口や鼻から吐き出した血が身体や顔の動きに合わせて飛び散ると、ストレルカは顔に向かって飛んでくるその赤い水滴を鎌を振り回して払った。
「邪魔するんならベルカの方だけにしときな!」
僅かに出来た隙にカミュはストレルカの方へとシバサキを放り投げた。
ストレルカはシバサキをどけようとして、鎌を右手で大きく振り回して柄をシバサキの脇腹へ滑り込ませた。そして、押し退けるように鎌を動かし横へと流した。
するとシバサキは力なく倒れるようにふらりと逸れていったが、彼のお気に入りのあのマントが遅れてはためくとストレルカの石打に引っかかったのだ。
「あぁっ!? あンだ、邪魔くせェ! どっか行けコラァ!」
ストレルカは猛烈に舌打ちをすると、回していた鎌をさらに強く振り、鎌に引っかかっていたマントを力尽くで引き裂いてシバサキをどけた。
「おまっ、あぁ、ぼ、僕の記念のマントがぁぁ……。高かったんだぞ、それ」
シバサキは傷だらけでまだ血も止まらない自身の身体のことよりも、縦にすっぱり引き裂かれてしまったおきにのマントの心配をしているようだ。
そして、彷徨う幽霊船のようになりながら、またふらふらと戦いの渦の中へと向かっていった。
繰り返すだけだろう。そのうち素っ裸にでもなるのではないか。俺はクロエに治療に専念した。