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黄金蠱毒 第六十二話

 掛け声と共に二人は同時に踏み込み、脆い床を割れるほどに蹴って突進し始めた。

 同時にシバサキに真正面からタックルを喰らわせて、大きく弾いて後ろに吹っ飛ばした。

 そして「まずはお前だァ、ロバ野郎(スヴェンニー)!」と二人は勢いを落とすことなくムーバリに向かっていったのだ。


 横を通り過ぎていったシバサキを僅かに身体を傾けて避けたムーバリは、素早くブルゼイ・ストリカザを持ち上げて下段に構えた。

 受けて立つと不敵に笑いながら槍を構えると切っ先が震える音がした。

 動き出すことはなく、二人の攻撃を受けるつもりのようだ。剣と鎌の攻撃を受けようと左足を前に出している。


 この二人は連携をして戦う。だが、今は集団を相手にしている。

 一人一人でも充分な強さを持つので、集団に対してなら別々に戦った方がいい。

 しかし、その集団である俺たちは完全にばらばら。互いに自分のことしか考えておらず、どさくさで消してしまおうとすらする。

 それ故に、連携を取って各個撃破をする方が彼らにとっては有利なはずだ。


「ヤツら引き剥がすぞ! 合わせろ、ムーバリ!」


 ムーバリは突然の指示に驚いたように肩を上げたが「お任せします」とふふっと笑った。

 俺は二人を別々に戦わせるために、二人の中心に火の玉を放とうと杖先に魔方陣を作り上げようとした。


 しかし、そのときだ。

 真横にいたはずのムーバリが姿を消した。目で追えないほど素早く突撃したようでは無く、まるで足下真下に大きな穴でも出来たかのように消えたのだ。

 彼の動きに合わせて魔法を放とうとしていたので、突然の消失に動揺して魔方陣を解除してしまった。

 そして、足下が視界に入るとそこにはシバサキに右足首を掴まれて倒れているムーバリがいたのだ。

 どうやら、強く踏みしめ、別れた後に来た攻撃を受けようとしたムーバリの右足首にシバサキが両手で思い切り掴みかかり、後ろへ思い切り引いたのだ。


 攻撃を受け止めようとしたが予想外の形で押さえ付けられたムーバリは堪えられずに滑るように前に倒れてしまったのだ。


 ベルカとストレルカは僅かに驚いた表情を見せたが、すぐに出来た隙につけ込もうと走る速度を上げた。


 一度足止めをする必要があると俺は再び魔法を唱えた。

 とにかく急ぎ、すぐ出せる火の玉を二人の間に向けて投げつけた。

 二人の目の前で炸裂すると、揃って右方向にそれを除けた。二人を別々にするまでは出来なかったが、除けるために動きを増やすことが出来た。


「オラオラオラァ、どうした! お前ら共同戦線張ったんじゃないのか?」


 しかし、ベルカは避けると速度を上げた。


「そうだ! だけどこいつは僕の情報と知識を利用するだけして利用した後、僕の黄金を盗み取ろうとしてる!」


 シバサキはムーバリの足首を掴んだまま立ち上がった。

 ムーバリは無理にシバサキを引き剥がそうとはせず、掴まれたまま逆立ちになった。

 そして、「お二人とも、お気になさらないでください。彼は少し前頭葉の血流が不足しているので。ははは」と笑っている。


 距離を詰められても戦えるムーバリをシバサキから解放したいところだが、ベルカとストレルカは足が速く、一度杖先の目標を変えてしまうと一瞬で距離を詰められてしまう。


「ムーバリ! さっさと振り払って体勢整えろ!」


「これは申し訳ない。イズミさん、しばらく頑張ってください」


「ふざけんな! 笑ってんじゃねぇ!」


 半ばヤケクソになってしまった。二人を分離することは一旦諦めて、火の玉を連続で放ち続けて廃屋の隅を走り回らせることでとにかく自分たちに近づかせないようにした。


「黄金はお前のモンじゃァないよ! アタシらのモンだ! アタシらがブルゼイ族である限りな!」


「馬鹿言うな。だが、盗人の足は押さえてやっているんだ。早くこいつのとどめを刺すんだ!

 僕の偉大な黄金捜索に貢献した栄誉をあとで讃えてやる! 僕に褒められるのはすごいんだぞ!」


「はぁ? ふざけんじゃねぇぞ! 人のモン勝手に持ってこうとしてるヤツの指示に従う道理は微塵もありゃしねぇ!

 つかお前はどっちの人間だよ!? やっぱりまずはテメェだ! 見知らぬオッサン(ストランニク・ダーダ)!」


 建物の壁際を走らせていたが、目標がムーバリからシバサキに変わったようだ。

 二人は魔法が途切れる僅かなタイミングを計り、足を捻らせて身体にブレーキをかけると、床がゴムのこすれるような音を上げた。

 止まると同時に向きを変えてシバサキに向かって突進し始めた。


 標的にされたことに気がついたシバサキは「うわわ! こっちに来てるぞ! 早く何とかしろ!」と慌てだし、掴まれて逆さ宙づり状態のムーバリを盾にしようと前に突き出した。

 不死身ならお前が盾にでもなれよ、と口走りそうになりつつも、いちいち突っ込んで集中力を切らすよりも口を紡ぎ魔法に専念した。

 しかし、二人の動きは素早く翻弄されてしまい、俺は依然として狙い続けていたが当てるどころかかすりもさせられない。

 すると、「おい、バカイズミ! お前もなんで当てられないんだ! この下手くそ、成長が見られない! 僕の方がうまく出来るぞ!」と怒鳴った。

 それでも当てられないでいると舌打ちをした。


「どいつもこいつも使えないな! モットラの役立たずは出て行け!」

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