黄金蠱毒 第六十一話
それを聞いたシバサキは眉間に皺を寄せ、二人の方へ向き直った。
何を言っているのか分からないように首をかしげると、「何を言っている? 黄金がお前たちの物? 自己紹介に使うなら、もう少しまともな冗談考えたほうがいいぞ」と今度は笑い出した。
「黄金はすべて僕の所有物だ。女神の祝福を受けた僕は、一言欲しいと言えば何でも手に入る。
僕がこの世界に生まれた瞬間から、僕の欲しい物は全て僕の所有物と等しいんだぞ。
いきなり出てきて盗っ人猛々しいお前たちこそ何者なんだ?」
「あ? 何をぬかしやがる。他の宝は知ったこっちゃねぇが、少なくとも黄金の――」
シバサキの返答に苛立ちを見せたベルカはシャシュカに再び手をかけた。しかし、今度はストレルカが柄頭を右手人差し指で押さえたのだ。
ベルカが怪訝にストレルカを見ると、ストレルカは首を左右に小さく振った。
「いや、いらないよ、ベルカ」と廃屋全体を見回し、
「どうやら、険悪なのはアタシらに対してだけじャないみたいだ。
それにハッキリ分かってることがたった一つある。その一つで充分さ。全員アタシらの敵だよ」
と言って柄頭からゆっくりと右手を離した。
そのまま右肩に右手を回し、彼女の武器である大鎌の柄に手をかけ、小指からゆっくりと手で感触を確かめるように握った。
すると柄に巻かれた布が引き締まるようなじりりと擦れる音を立てた。
「アァ、なるほどな」とストレルカに止められたベルカは目を閉じて肩で大きく深呼吸した。
「カッとなっちゃいけねぇな。戦いの基本において身体は熱く頭は冷たく、だな」
「どうやら、彼らはやる気のようですね。これは致し方ない」
ムーバリも二人の敵意に反応し、背中のブルゼイ・ストリカザに手をかけた。俺も遅れずに杖を再び強く握り直した。
背後にいるユリナたちも視界には写らないが、背中に受ける圧迫感が鋭くなった。迎撃態勢になったのを空気で感じる。
しかし、一番最前線にいるシバサキだけは相変わらずで、
「なんだかよく分からない二人組、引くなら今のうちだぞ! こっちはお前らの四倍味方がいるんだ。多勢に無勢だぞ、諦めろ!」
と言うと胸を叩いて顎を上げた。
見下ろされたストレルカは鼻を鳴らし「ソイツはステキだなァ。だが、アタシら二人対その他全員てワケじャないね」と口角を上げた。
「さしずめ、隅っこの三対、槍の一対、金髪の一対、チビの一対、オッサンの一対、イズミの一対、それから、そこで伸びてる眼鏡女を入れれば一対、そして、オレたち二人ってとこか」
ベルカはひと組ひと組順に左人差し指で指さした後、シャシュカを抜き出した。その動きに合わせて左足を前に出し、右手のシャシュカを器用に回した。
ストレルカも足を肩幅に開き大鎌を持ち上げ、空を切る音を鳴らして頭の上を通すように振り回すと中間と石打をしっかりと握り構えた。
「ベルカ、ややこしいンだよ。要するに、全員まとめて」
「「ブッ殺ス!」」




