黄金蠱毒 第五十八話
一度蹴り破られたドアが今度はドア枠ごと吹き飛ばされるかのように開けられ、脆くなり衝撃に耐えきれなかった金具が飛び散る音とドア板が重く倒れる音が響いた。
その音と共に吹き込んだ風は、それまでのわいわいとした怒鳴り声が響いていた酒場廃屋を唸り声を上げて通り抜け、全ての喧噪を掻っ攫っていった。
その突然の来客に最後まで青筋を浮かべて怒鳴り続けていたシバサキまでも黙り込んだのだ。
「うーす、話の途中で悪ぃんだが、邪魔するぜぇ」
ドアから外の光が差し込むと、巻き上げた埃の幾何反射を遮り男の影とその後ろに女の影が現れた。黄色い目をした二人組、ベルカとストレルカがやってきたのだ。
「お前ら、何しに来たんだ?」
窓から近づいてくる様子を今か今かと待ちわびるように見ていた俺は、二人組に憎しみを覚えつつも、どうしようもなくなったこの状況を破壊してくれるであろうと何かを期待して気持ちが逸り、揉め事が起こるようにわざと挑発的な態度で我先に声をかけた。
この二人に会ったのは、セシリアを誘拐されたときのたったの一度きりだ。
だが、その一度での印象は充分すぎるほどに最低だった。そして、その後ムーバリがセシリアを救出したときまでの話は全て聞いていた。
此所で会ったが百年目。はたまた一体何回目の対峙なのか。たった一度のインパクトで刻みつけられた憎たらしいその面に懐かしささえ覚えるほどだ。
この二人とは戦い慣れているわけでもないのに、身体は自然に前屈みで腰を落とし、すでに持ち上げていた杖の先端を二人に向けて真っ直ぐ向けて止まった。
だが、二人は余裕の表情だ。俺の姿を見ると、おぉ、と口を丸くして目尻を下げた。
「おぉう、イズミじゃねぇか! 会いたかったぜぇ。生きてるたぁ聞いてたが、息災で何よりだぜ」
向けられている杖の先端と俺の顔を交互に見ながらわざとらしく再会の喜びを口にした後、ベルカはさらに両手を広げて余裕を見せつけてきた。
掌を揺らして笑った後、額に手を当てると「ガキも息災か? ……姿が見えねぇようだが?」と首を左右に回し、何かを探すような仕草を見せてきた。
「おかげさまでな。腕も足もなくなってない。セシリアも元気だ。
それで何しに来たんだ? 残念だが、セシリアもアニエスも安全なところにいる。あのときほど油断もしてない。
無傷で帰れると思うなよ? ここにいる人たちは全員強い。この辺りも無人だ。周りぶち壊すくらい暴れても問題ない」
杖先を脅すように揺らして、群衆から一歩前に出た。
しかし、ムーバリが横に来ると向けていた杖の先を握り、「イズミさん、私の実力を認めて貰えたのはありがたいですが、ここはひとまず落ち着いてください」と下ろせと促すように力を込めてきた。
込められた力に僅かに抵抗していたが、杖を下に傾けると押し込めようとする力は無くなった。