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黄金蠱毒 第五十七話

「とりあえず、今日は何故呼び出しがあったのか、落ち着いて少しだけ話し合いませんか? 招集をかけたユリナさんご本人は先ほどそ」


 突然、ずん、と酒場廃屋全体が揺れると埃やら石ころやらがぱらぱらと天井から降ってきた。

 それらが床に落ち、肌が痒くなりそうな黴臭い埃が舞い上がると同時に「モットラぁぁぁ、お前いったい何様だぁぁぁ!」と大声が窓ガラスを揺らした。

 シバサキがまるで四股でも踏んでいるかのような強烈な地団駄を床に思い切り踏み、怒鳴り声を上げたのだ。

 ムーバリはその突然の出来事に驚き、言葉を飲み込むように話を止めた。


 シバサキはムーバリに向かって人差し指を突き刺すと、


「というか、お前! どの面下げてこの場に顔を出せたんだ! こンの裏切りモンがァァァ!

 何度も言うが黄金探しの責任者は僕なんだぞ! 全ての指示は全部僕が出すんだ!  ただの諜報部員のくせに仕切ろうとするんじゃない! それに、黙って、従えェェェ!」


 と時折声を裏返らせながら喚き散らした。


 ムーバリは驚いた表情のまましばらく硬直した後、小さく「最近の偽名は、ほとんどムーバリなんですけどね……」とつぶやくと、諦めたように首を振り掌を天井に向けて肩を上げて引っ込むように壁際まで下がった。


「どうするんだ! 何なんだ、この時間は! グダグダじゃないか!」とシバサキは話を進められなくなり混乱気味になったのか、さらに怒鳴り声を上げた。

 しかし、どうすればいいのかわからないのは彼だけではないようで、誰も何も言わなくなった。


 こういう事態になるとだいたい俺(いればカトウに。要するに強く言い返さない人間)に何かを言って突っかかって飽きるまで説教を続けようとするのは、かつて仲間だった頃の経験から分かる。

 仲間ではなくなった今でもそうなるであろうというのもだいたい予想が付く。


 仲間だった当時、俺が何も考えずに、そして揉め事が嫌だから、嫌われたくないからという理由で考えも無しにいい加減にハイハイと頷いていた。

 彼の中でそういう人員に認定されたのは、自分のせいと言えばそうなのだが。


 もう仲間や上司ではないので強めに言い返してもいいのだが、相手をするのが非常に面倒だ。

 ユリナはすでに集会を開いた目的を話し終えているが、今日はこれからが長そうだ。

 セシリアとアニエスの迎えにも行かなければいけないというのに。困ったものだ。

 長引かせないようにするにはどうすれば良いか、考えを巡らせた後、極力シバサキと目を合わせまいと酒場廃屋の汚れた窓ガラスの外に視線を送った。


 すると、砂だらけで黄色くなった窓ガラス越しに何かが見えた。

 風が吹いて廃屋に残ったボロ布がはためいているだけかと思ったがどうやらそうではなく、誰かがこちらへ向かってきているようだった。


 すりガラスのような視界の先を見ようと目を細めると、そこにはあの二人組の姿見えたのだ。

 あれは憎い二人組だが、もしかしたらこの停滞した状況を空気をぶち壊すような形で改善してくれるのではないだろうか、と俺は思わず何かを期待してしまった。


 何れにせよ、おそらく戦闘は避けられない。杖を腰から外して持ち上げた。


 シバサキ以外は敵対的来訪者の気配にはすでに気がついていたようだ。誰一人表情を変えないが、俺が杖を持ち上げたことでさらに空気が張り詰めた。

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