黄金蠱毒 第五十五話
「おい、貴様、何なんだその態度は? お前の方が忙しいだと?
そんなわけない。僕は領主で諜報部のトップだぞ?
普段は椅子に座ってるだけでたまに顔を出すだけのお前と違って、通常業務もこなしていながらこうして常に顔を出して部下を思いやっている僕の方が忙しいに決まっている。
そんな僕がわざわざ来てやったんだぞ? 黄金は見つかったのか? さっさと報告してくれ」
「ねぇなぁ。少なくともエルメンガルトのばっちゃんとお楽しみになるために黄金探してる奴にする報告はなぁ。
だいたい忙しいって、通常業務って何してんだよ? クソ眼鏡の話じゃ普段オフィスにはいないらしいじゃねぇか。
ワタベとか言う脂質の塊にブタッパナつけた赤ハゲと一緒にお店のねーちゃんにほっかむりでカスだらけのアレを弄くり回して貰うのがそんなに忙しいのか? あ?」
ユリナはシバサキをあざ笑いながらそう言った。ユリナもユリナで、よくそのような下品を通り越した侮辱的な言葉を思いつくものだ。その場にいた女性陣の顔がにわかに引きつっている。
話合いがあり、そこにシバサキがいるとなると彼が怒り出してしまうのが毎回のパターンだが、今回彼を怒らせたのはその文言のようだ。
ついに容量が少なく柔軟性のないシバサキの堪忍袋の尾が切れてしまった。「ふざけるな!」と怒鳴り声を上げるとユリナに顔を思い切り近づけた。
「僕がただ私利私欲のために黄金を探していると思っているのか!?
欲も何もなぁ、だいたいあれは元々全て僕の所有物だぞ。それを探し出して、しかも連盟政府の研究のために無償で差し出そうとしているんだぞ!? 社会貢献の為だ!
それに黄金は山のようにたくさんあるんだ。その余りを自分のために使うことの何が悪いんだ!」
ユリナは顔の目の前で前髪が靡くほどに口角泡を飛ばされると口を曲げて目を細めた。そして、顔に向かって飛んできた唾を手で拭うようにした。
シバサキは先ほど殴られたことがあり、ユリナに掴みかかりたいが返り討ちにされることを恐れて、手を出せない様子だ。言い切るとシバサキは一度ユリナからはなれてクロエの方を振り向いた。
「おい、クロエ! お前からも説明してやれ! 僕たちのしている研究が如何に偉大か、教えてやれ!」
しかし、クロエは何も言わなかった。言える状態ではなかった。
シバサキの視線の先でクロエはぐったりと横たわり、目、耳、鼻、口、顔にある穴という穴から血を流している。
意識はあるようだが、反応などする余裕は皆無であり、弱々しい呼吸で胸が上下している。時々咳き込み口から血混じりの赤黒い色をした唾を苦しそうに吐き出している。
シバサキは「なんだ、全く」とつぶやくと額を押さえてため息をつき、わざとらしく大きくよろめいて額を押さえるような仕草を見せてきた。




