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黄金蠱毒 第五十四話

 今さらこの男は何を抜かしているのか、恥知らずにもほどがある。

 散々人に罪をなすりつけるのが教育なら、世界は聖人で満たされてしまう。反応するのも馬鹿馬鹿しい。


 しかし、ここまで一切の迷い無くそう言えるのは、今という一点において少なくとも彼の中でだけは紛うことなき事実だからなのではないだろうか。

 極めて柔軟な思考と言えばそうかもしれないが、柔軟性とは他者の意見を踏まえるものだ。

 だが、彼のそれは違う。

 現在の自分の考えのみが正しいと考え、ケースバイケースで変化するいくつものスタンダードを抱えることになる。

 それにより矛盾を生み出し、混乱招くことも厭わない。

 ある意味ではリーダーの資質があるとも言えるが、それは物事を完遂させるという目的があってのことだ。彼については、行動の全て彼自身の為であり完遂が目的ではないからだ。


 ……ダメだ。くそ真面目に彼の特性について考えるのはしんどい。何にせよ、ついてはいけない。


 真っ直ぐ向けられた視線を交わすために真上を見つめ、ぐるりと眼球を外転させるように動かして左下を見ると、ふと腰に付けていた杖が目に入った。

 よく見ると杖の木目の間にはゴミが詰まっているではないか。杖を持ち上げて人差し指の爪の先で溝をほじくった。

 カリカリと力を込めてほじくると柄の溝に詰まっていた黒い垢の(割と大きめの)塊がぽろぽろと落ちた。

 するとシバサキを取り囲む様に移動し横に来ていたユリナが「って、オイ、きったねーな! こっちに落とすんじゃねぇよぉ」と飛び退くように身体を仰け反らせ、眉間に皺の嫌悪を乗せて睨みつけてきた。


 諭すような眼差しで俺とユリナを見ていたシバサキは、「そうか……。無視するのか。恩知らずも甚だしいな。悲しいよ、全く」と大げさに肩を落としてため息をした。


「これまでの全ては僕がお膳立てして上げてきたって言うのに、そういう風にないがしろにしてしまうのか。

 何にも出来なかった君を育て上げ、今日があるというのは全て僕のおかげだというのに。

 まぁ、きっとどこかで、僕の知らない上司のところでまた痛い目に遭うんだろうね。可哀想に。

 僕はかなり優しい方だよ。現実はもっと厳し……」


「おい、クソ詰めマッチ箱、なんか知らねぇが、ごちゃごちゃうっせーぞ。お前の話、誰も聞いていねぇからな?」


 ユリナはシバサキの説教を遮り、「さて、オマケのマッチ箱さまはどうでもいいか」と両手を叩いて衆目を集めた。

 そして、ぼろきれ状態のクロエに近づき、

「で、お前ら、忙しい私が今日わざわざ全員を集めてまで何を言いてぇのかってのは、たった一つだけだ。

 私らの機材を盗み出そうとしたらこうなるからな? ダチとはいえカミュでも、マリークが止めても容赦しねぇぞ? よく覚えておけ」

 と踏みつけるようにクロエの肩に足を乗せた。

 続けて、その場にいる全員に向けて歌舞伎の見得のように顎をしゃくりながら回し威嚇をした。


 すでに無残な状態だったクロエをここまで連れてきてさらに殴りつけたのは、要するに見せしめなのだ。

 性格的にクロエとユリナは合わなさそうだ。おそらく捕まったクロエが思わせぶりで狂気ぶった物言いをしたか、余裕を見せようと虚勢を張ったせいでここまで殴られたのだろう。


 レアは険しい顔になり、何も言えない様子で下唇を噛んでいる。カミュも同様だ。ムーバリは哀れな姿のクロエをただ黙って見下ろしている。


 しかし、シバサキは毎度の如くユリナの言葉に腹を立てたのか、顔を真っ赤にして膨らませて肩を上げるとユリナに詰め寄った。

 だが、まだ爆発することは押さえているようでふるふると震えているだけだ。

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