表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

863/1860

黄金蠱毒 第四十六話

「誰かー! いるんだろ! 僕だ。僕が来たんだぞ! 開けろー! 開けごまー! オープンセサーミー!」


 ドア越しにやたら通る中年の裏返った声がした。

 聞き覚えのあるなしではなく、壁を隔てても容易に聞き取れるそれが誰のものであるか名乗らなくても分かる。シバサキの声だ。

 お大尽様のお出ましと同時にどこからかいくつかの舌打ちの音が聞こえると、全員の気が一度に抜けて張り詰めた空気は抜け、一度膨らませて線維が伸びきった風船のようにだらしなく萎んだ。

 「ああ、なるほど」とムーバリは槍を背負い直し「確かに、()()()()()、ありましたね」とドアの方を見ながら埃を払うように手を叩いた。


 それから「開けなければ僕はこのまま帰ってしまうぞ! 話が始まらなくなるぞ!」とか「何やってるんだ! 早くしろ!」とか怒鳴り声を上げながら何度かドアを蹴ったり叩いたりしている乱暴な音が続いたが、誰一人ドアには近づこうとはしなかった。

 こういうとき、クロエは歪んだ顔をしながらも開けていただろうが、その彼女は今この場にいない。

 開けようと思う誰かは実はいるが張り詰めた空気で抑えつけられ動けないという様子もなく、誰一人開けるつもりも無いようだ。


 帰るなら帰っていただいた方が話をスムーズに進められるだろうな。ホントに帰らないかな。


 にわかに彼の言葉に期待をするばかりで、俺もただ揺れるドアを見つめるだけの群衆の一人になることに徹していた。


 そうしているうちにシバサキはついに痺れを切らしたのか、ドアを自ら思い切り開けた。

 開く以上の力を込められて開いたドアは、勢いよく開かれて床を引き摺る悲鳴を上げた。

 そして、その勢いを緩められることなく壁にぶつかると廃屋全体を揺らした。

 ぱらぱらと壁や天井のかけらが落ちてきて、埃が舞い上がっている。

 ドアに視線が集まり、外から差し込む光の中にシバサキが現れた。


「なんだ。いるじゃないか。なんで誰もドアを開けないんだ! 黄金探しの責任者が来たんだぞ? 偉い人が来たらドアを開けるのが普通なんじゃないのか? 少なくとも僕はそう教育されてきた」


 シバサキはぐるりと全体を見回しながらそう言うと、威嚇的な行動を取ることで反省を促しているかのような顔をした。

 しかし、そこにいた一同は自分の方へ視線が流れてくるのを避けるように違う方向へ視線を送り始めた。


「それになんなんだ、いったい。こんな時間に集合とはふざけてるな。誰よりも忙しい僕の予定に合わせるのが普通だろう。いきなり来いとは無礼極まりないな。

 僕が移動魔法を使えなかったら、誰が商会にカネを出させるつもりだったんだ。払えるのか? おい! 聞いてるのか!?」


 ぶつぶつと何か文句を喚き散らしながら廃屋の中心まで来た。目立つ位置にまで来たが誰も何も反応しないことに苛立ち始めたのか、今度は俺の方へ振り返り大股で近づいてきた。


「おい、イズミ。あの子はいないのか? わざわざ迎えに来てやったのに、何やってんだ。

 今日呼び出したのは、あの子を僕に預ける決心がついたけどお前が全員呼んでも誰も来ないから代わりにユリナに頼んで招集かけたもらったんだろ?

 ホント一人じゃ何にも出来ないヤツだな」


 何やら迷惑そうな顔をしている。シバサキが何を言っているのか理解が追いつかず、思わず口を開けて見てしまった。

 すると、ムーバリが肘で脇腹を小突いてきた。何だと思い彼の顔を覗うと、下向きの顎を小さく左右に振った。

 なるほど目を合わせるなと言いたいようだ。


「ほら、今から呼んでこい。まだユリナが来てないから間に合うぞ。

 でも、あのバカ女が来るまでに連れてこないと、話合いに入れてやる価値なくなるからな。元々居いてもいなくても同じなのに僕の好意でいさせてやってるんだから。

 ホラ、さっさと行け。

 しかしなぁ、目上の人が来たというのにまだ来てないとか……。ホント社会ってのを相変わらず何にも分かってない女だな。

 バカクロエも朝からどっか行ったきり戻ってこないし仕事が進まないじゃないか。

 僕の周りは礼儀も常識も恥さえも知らないバカばっかりだな、全く」


 そういうと俺のコートの裾を思い切り掴んでドアの方へと歩み出した。いきなり引っ張られたのでバランスを崩しそうになってしまった。


 しかし、シバサキがドアに手をかけようとしたまさにそのとき、ドアが勢いよく開き何か黒い物体が飛び込んできたのだ。


 シバサキはそれに巻き込まれるように吹っ飛んでいった。

 幸い、飛ばされた拍子にガッチリと掴まれていた裾から指は剥がれていたので、俺まで巻き込まれて飛ばされることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ