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黄金蠱毒 第四十四話

 酒場廃屋の雰囲気は日々悪化していく。


 足が折れ使い物にならないテーブル、背もたれがもげてスツールのようになった椅子、真ん中で割れたバーカウンター、躓いてしまいそうに継ぎ接ぎででこぼこの床板。

 まだ埃もさほど積もっていないそれらは、どれも最近そうなったものばかりだ。集会がある度に誰かが何かを必ず壊していくからだ。

 時間や風によって朽ちた物ではなく、明らかな暴力によって破壊された物を見るという精神的な苦痛もあいまって、最初は人に忘れ去られたもの悲しいただの廃屋だったはずがいまや柄の悪い雰囲気に支配された不良のたまり場のように成り果てている。

 そして、その日はこれまでに無いほどに険悪だった。


 ドアを開けて中に入ると、まだ誰とも目が合ってもいないにも関わらず、気候のせいで乾燥しすぎて赤くなった皮膚がさらにピリピリと痛むような、得も言われぬ感覚に全身が襲われた。

 居心地と気分の悪さに首筋を押さえて建物の中を見回すと、レアとカミュの連盟政府の代表者、ジューリアさんとウィンストンの先史遺構調査財団の代表者がすでに来ていた。


 後は北公の代表者が揃えば全組織が来たことになる。


 だが、すでにいるメンバーはどこかおかしい。昨日の夜中に突然集会を開けと一方的な連絡をしてきたのはユリナであり、彼女が直々にやって来ると思っていた。

 しかし、この場にその姿が見当たらない。


 もちろんだが、黄金捜索については未だに全く進展がない。捜索協力体制を敷いて一体どれほどの日数が過ぎただろうか。

 ぎすぎすとした腹の探り合いと自分たちの思惑が絡み合いすぎて身動きが取りづらく、誰も手がかりについて新たな情報を何一つ得られない状況により切り詰められるような焦燥感に苛まれたまま報告会が催されることになったのだ。


「ぉ、おはようございますぅ」とせめて普通にしようとした挨拶も張り詰めた空気で言葉が喉に押し込まれたようにぼそぼそとしたものになってしまった。

 自信のない挨拶など無視されてしまうかと思ったが、店の角と角の反対側にいる二つの組織は暗闇の中でぎろりと目を光らせて俺を睨みつけるという返事だけはとりあえずしてくれた。


 俺が信じていているのはセシリアの記憶だけであり、どの組織の情報も基本的には当てにはしていない。

 だが、今後それにより黄金が見つかるなら利用して誰よりも先に見つけて独占するつもりだ。

 逆に、見つからないのならそれはそれでよく、無いことがはっきりしさえすればいいとも思っている。

 本音は黄金が何かしらの形で戦争利用されることを防ぐ為であり、それを隠す為の建前で動いている俺はこの壺の中に放り込まれた蟲たちの間ではどうも浮いてしまうようだ。


 店の角と壁側は険悪故に近づきたくない者同士で対角線上に陣取られ、どちらからもこちらへ来るなと強い気迫がぎりぎりと放たれている。

 どこに行けば良いのか、取り付く島もなくドアの前でおどついていると後ろから声がした。

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