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強欲な取引 第三十話

 もし万が一、その条件をのむとユリナさんが言ってしまったら?


 ガウティング・ゴフの前進企業であるカールニークはプロメサ系共和主義者の企業、選挙前こそはユリナさんを始めとした政府関係者と険悪だった。

 しかし、ノヴィー・ヴルムタール・オーツェルンとの関係性を聞く限り、私が思うほどに険悪ではなくなっている。


 関係性の改善が見られた原因として考えられるものがいくつかある。


 まず、カールニークの前社長の息子であるオリヴェルはユリナさんの義理の息子であるマリーク・ギンスブルグの親友。

 二人は強硬派、和平派という彼らの親同士の相対する主張を乗り越えた結果、固い絆で結ばれた。

 家庭の事情を持ち込むのはあり得ないかもしれないが、繋がりとはそう言うところから広がっていく物なのだ。


 それ以上に関係を近づける要素がある。

 選挙の際、強硬派候補を追い詰め、和平派候補であったシロークさんを当選させることにつながった強硬派青年支部リボン・グリーン団の勇気ある行動は、オリヴェルが率先して行ったのだ。

 彼は幼くまだ後見人がついているとはいえ、カールニークの現社長。ガウティング・ゴフの業務に直接関わっていなくとも、その発言権は皆無ではない。


 条件をのまない可能性が、著しく低くなっているのは確かなのだ。


 だが、もう迷っている時間はない。


「待ってください! わかりました! 差し止めも行います!」


 ユリナさんが二と言うよりも先にソファから立ち上がり、声を荒げて引き受けることにした。

 ユリナさんはニッコリ笑顔になり大きく頷くと「伍長、発射中止ー。話はまとまったぞーい」とキューディラに向かって声をかけた。


「ですが、ユリナさん! こちらには条件が!」


 私が再び条件について言及しようとすると、ユリナさんは川の水が一斉に乾くように表情を失った。

 そして、私を見つめたまま再び腕を顔の前に持ち上げてキューディラに顔を近づけた。


「……えぇ、撃ちたかったって? 婚約者に花火を贈りたい? クソ袋から血が噴き出すなんてきったねぇ花火だな、なんつって。さんにーい……」


 ユリナさんは再びカウントダウンを始めた。先ほどよりも短く、そして投げやりに手から放すように数を落としていった。


「無条件です!」


 一が過ぎるよりも早く、無条件であることを伝えた。


 もはや、これまで。

 何もかも、すべてユリナさんの手の中に落ちた。


「いい加減にしてください。無条件です。わかりました。無条件で銃の取引を行います。新聞も差し止めさせていただきます」


「伍長、中止よ、ダメダメ。イク前にイっちゃう早漏は婚約者に嫌われるわよ。まだ撃ってくるのはテキトーにあしらって総員撤退」


 ユリナさんが無表情のまま、いつもの冗談交じりな話し方で伍長に指示を送ると、キューディラから「(アイマム)」と聞こえると通信は閉じられた。


 まるで窓が閉じられたかのように静まりかえり、風の音すら聞こえなくなった。全世界から音が消えたような気分だ。


 このところ、商会はやり込められてばかりだ。本当に変革の時代が訪れているのだろうか。

 人間の連盟としての単一性は崩れた。そこを司っていた三機関ももはや過去の者になりつつあるのだろうか。

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