強欲な取引 第二十九話
「中止しなさい! あなたのすることには大義がない!」
目の前でほくそ笑むユリナさんをにらみ返し、強く声を荒げた。
しかし、ユリナさんは眉を寄せて小首をかしげた。
そして、立ち上がると窓辺へ向かい、「ここからも見えそうだな」と額に手を当て左右を見回し目を細めた。
「四十五度で遠くから一発ぶっ放せば、連盟政府の魔法使いさんたちの斜め上辺りでパーンと弾けて、お空の上からオーバーキルだな。
その瞳の最後に映るのは一体何なのやら。目でも追えないほど素早い鉄の矢に貫かれたことさえも気がつかないだろうな。
魔法使いさんはこれまで通りの古い戦法に固執してて、攻められると一カ所に集まるんだよ。
止めたかったらどうすればいいか、よく考えるんだな」
ユリナさんが言い切ると同時に、彼女のキューディラが鳴った。そして、「まぁ、そんな時間もねぇようだが」と言いながらキューディラに応答した。
すると先ほどの伍長の声が聞こえてきた。
「長官、よろしいですか。着弾が予想される範囲および予備範囲から総員待避しました。メイジたちは範囲内の一カ所に集まっていて今なら一網打尽に出来ます。
ですが、その状態もあまり持ちませんので早めに指示をお願い致します」
「ご苦労。素晴らしく早い行動だ。伍長、カウントする。五,四,三,……」
ユリナさんは数えながら、瞬き一つせず私を真っ直ぐ見ている。カウントダウンは伍長に向けたものではない。
これまでの長話も何も全て、時間稼ぎのためでしかなかったのだ。
最初から、あのおかしいテンションでこの部屋に入ってきたときから、いや、それよりももっと前から全てユリナさんの手の中にあったのだ。
最悪だが、これを最悪な方法だと私たち商会がユリナさんを非難することは出来ない。
自分たちとやり方が違うだけで、自ら作り上げた土壌の上で“勝ち負けではなく、既に出た結論に頷かせる”というのは何ら変わりが無い。
そして、その悪辣さの垣間見える方法さえも。
ここで私が引かなければ、誰の土地でもない砂漠で意味の無い戦闘に巻き込まれ、多くの魔法使いたちを無駄死にさせるだけだ。
殺害にこそ抵抗はない。だが、私たち商会がもたらす死には必ず大義がある。
魔法使いたちのここでの死は、本当に意味の無いただの消耗でしかない。
次世代の覇権を決める為の大いなる犠牲と言えば大義名分は付けられる。
しかし、先ほど私はユリナさんと取引をすると言ってしまった。ここでユリナさんを止めずに撃たせてしまったとしても、取引は確実に行われる。
そこに条件という楔を打つチャンスはまだある。私が突きつけようとしている条件は彼女にとっては不利。
だが、もし。万が一だ。




