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強欲な取引 第二十八話

 ユリナさんは砂で兵器の様子を示したかったようだが、ただ掌から振りかけられただけのそれではイメージがしづらい。

 散弾、ということは弾丸が散らばる兵器だろう。目標たちの上空で砲弾が炸裂すれば、そこに入っている鉄の矢が降り注ぐと言いたいのだろう。


 一般的に物の散らばりは高さに比例する。例えば、高い建物で窓ガラスが地震など割れれば、建物の高さと同じかそれ以上の範囲にガラス片は飛び散る。

 砲弾から放たれた物体は、落下の加速に加えて火薬の勢いを加えればあっという間に終速度に達する。

 空気抵抗の少ない形であればその速度さえもかなりのものになる。例えば矢の形だったとすれば。


 だが、どれほど脅威であっても範囲外から出てしまえば意味が無い。逆に密度が薄ければ運良く回避することも可能だ。

 しかし、最高高度で地面と平行な線を引き弾頭がその線から四十五度の下方への傾きになったときに炸裂すれば、広範囲にある程度の密度を持たせたまま降り注がせることが出来る。


 広範囲に高速の鉄の矢が満遍なく降り注げば、来ると分かっていても人間の足では逃れることは出来ない。

 魔法使いたちが密集隊形を取っているとなると、集団の内側にいる者たちは緊急回避行動をとることができない。


 共和国の技術は高度であり、対象に最大限の損害を与える為の計算はされ尽くされている。

 そこからは最悪の結果しか想定できない。言わずもがな、それは――。


「なんでハリネズミ(ヘッジホッグ)かってのは、喰らったヤツが、な」


「ユリナさん、あなた、まさか!?」


「ひっひっひっ、わかった? やっと焦った声出したな。安心したぜ。お前も人だな」


 私の焦りに満ちた声にユリナさんは満面の笑みを浮かべた。取引の為とはいえこれはやり過ぎだ。


 なるほど、魔王はここにいた。伝説でもプロパガンダでもない、まさにこの人は魔王そのものなのだ。


 狂気じみている。間違いなく魔法使いたちを殺しに来ている。一人二人ではなく、そこにいる全員を一人残らず。

 もはや共和国の対外的メンツなど考えておらず、本当に兵器の実戦での評価の場として使おうとしているだけなのではないだろうか。

 それとも、まだ兵器をよく知らない連盟政府の魔法使いたちに鉄の矢を人間たちにとって畏怖の対象である天から降り注がせることができるという恐怖を植え付け、戦う意思を根刮ぎ奪おうと言う目的があるのかもしれない。


 否、砂漠は誰のものでも無いのだ。

 メンツはもとより関係なく、そして、独り歩きをする噂は恐怖を煽る。


 もし今ここで話し合いが行われていなければ、おそらく問答無用で砲弾は放たれていただろう。この取引が兵器の現場の引き金を、今この瞬間も押しとどめている。

 もしかしたら、共和国軍と連盟政府の戦闘が代表者同士の話し合いの間に起こったのは、本当に偶然なのかもしれない。

 取引における偶然をもたらす運と、その偶然を確実にチャンスに変える力をユリナさんは持っているからだ。


 だが、何れにせよ今この場で魔法使いたちを殺してはいけない。誰かや何かの為ではなく、残酷にただ殺されようとしている彼ら自身の為に止めなければいけない。


「なんて非人道的な兵器を作るんですか!?」


 身体を前に乗り出し、ローテーブルを両手で思いきり叩いた。

 ユリナさんは乗り出した私の身体に近寄り、あ? と顔を目の前まで寄せて来た。


「おいおい、そりゃ人権意識のパフォーマンスか? 誰かを負傷させる物売りまくっといてそりゃねぇだろ。

 魔法射出式でも雷管式でも当たれば痛いし傷も付く。

 どっちが致命傷になるか。そりゃ雷管式だわな。

 だがなぁ、話はそこじゃねぇんだよ。痛いのはイヤだろ? ささくれだってイヤなのにな。

 誰かにイヤなコトされてどう思う? 魔法でも弾丸でも、傷つける時点で人道からはすで外れてるんだよ。

 怪我人は士気を下げて、死人は士気を上げる。誰も殺さずに致命傷だけ与えればお互いヒートアップしなくて無駄な戦いを起こさない、なんてのはハナから間違ってんだよ。


 戦闘が起こっちまった時点でなぁ!


 さてさて、今回の戦いで火蓋を切ったのはどちらさまかしら?

 ウチの優しいメイドさんは、誰が売ろうが知ったこっちゃない、撃っちまったヤツがけじめつけろって言ってんだよ。

 だがなぁ、私は誰が悪いかじゃなくて、全員が悪いんだと思うんだよ。

 なぁ、連盟政府の商人さんよォ? 今の世界情勢は、痛いのは嫌だから相手を全面戦争でぶちのめします一歩手前なんだよ、もうな」

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