強欲な取引 第二十七話
「金融省長官選挙後、前政省長官メレデントが帝政思想であることが明らかになり、その支持者だったカールニーク社社長が自殺。
その後、息子が会社を引き継いだが、まだ彼は幼い為に金融省職員だった社長の弟が代理に就き、科学産業に方針転換」
「それは知っています」
「そのとき、武器開発部門は解体。大量の優秀な人材が宙に浮くことになった。
だが、それは技術立国であるのにあまりにももったいないだろう。反政府活動に走られても困る。
ということで、ガウティング・ゴフって別の会社を作り、進行中の事業を全て引き継ぎ、あぶれた武器開発部門の連中全員を好待遇で雇った。他所に行かれてイカれたモン作られても困るしな。
で、そこの表だっての業務は園芸用品と金属加工の小規模メーカーで、化学肥料の開発研究とユニオンモートルやらの車部品製造業だ。
グラントルアのマダムの間じゃ、よく育つ肥料のメーカーでお馴染みのガウティング・ゴフ。
だが、裏ではノヴィー・ヴルムタール・オーツェルンの出資であっちこっちの武器会社のサードパーティー製品を作らせてる。
ノヴィー・ヴルムタール・オーツェルンはまだデカい企業じゃない。だから、もちろん資金の元手は私で、さらにペーパーカンパニーを挟んだ出資だがな。
そこで開発した散弾式の砲弾だ。やっぱ元武器開発部門のエリート連中だけあって、狂気じみたモン作るんだわ。
ヘッジホッグてのは砲弾の愛称で、正式名称はゴフ八インチ対地散弾式砲弾。漏れなくそれもチャリントン・インダストリー製八インチ榴弾砲のサードパティーだ。
ぴったりすぎてチャリントンもサポート対象にしちまうくらいなんだぜ」
ユリナさんは顔の前で拳を握った。
「お前さんの頭くらいの砲弾を飛ばすんだよ。でも、それがヒューンて飛んで、ドッスンて落ちるんじゃ芸がねぇよな」
そう言いながら手を上げて拳で放物線を描いた。掌が地面に付いたような仕草をすると、今度は掌に砂を握りその拳を再び顔の前に持ってきた。
「タダでかいだけじゃねぇんだよ。
実はな、そん中に私の人差し指くらいのちっこい鉄の羽つき矢がしこたま詰め込まれてんだ。
連盟政府にある物で例えるなら……そうだな。フレシェットだな」
今度は拳を放物線の最高点を過ぎた当たりで開いた。掌の中の砂は解き放たれて地面に散らばって消えた。




