強欲な取引 第二十五話
私たち商会はガンパウダーの取引を行った際のノウハウというアドバンテージを得られ、今後効率的に取引を行いたい場合には私たちに依頼する可能性が高くなるのだ。
そして、最初の正式な取引でもうけた五十パーセントというマージンが基準になるのだ。
そこで商会が譲歩という形でマージンの引き下げを行えば三者の関係を強化出来る。北公のみならず、共和国さえも商圏に取り込むことも可能になる。
しかし、既に規模の大きい商会は自身の利益追求よりも人間世界全体(これからは人間・エルフ共有圏全体)の経済的加速を目指すべきなのだ。
共和国を商圏に取り込むのは理想的だが、そこに至るまでは茨の道が広がっているのだ。
五十パーセントという利益に吊られて安易に目を輝かせ、そしてそれを相手に悟られてしまうという商人としてあるまじき行為が如何に軽率か、後悔では済まされないほど屈辱的に感じた。
それ故に条件は必ず突きつけて、この人を引かせなければいけない。
ユリナさんは「おっと、そうだ」と足をテーブルから下ろし姿勢を正すと、キューディラに向かって話し始めた。先ほどの連絡を終了していなかったのだ。
「あーあー、伍長? まだドンパチは続いているか?」
ユリナさんは視線だけを動かして私と目を合わせると、まるで内容を聞かせようとしているのかキューディラの音量を上げた。すると、ノイズに混じり等間隔で爆音が聞こえてきた。
そして、中高年の男性の声で「(現在も交戦中であります)」とエルフの言葉で落ち着いた声が聞こえた。
ユリナさんはチッチッチッと素早く口を鳴らすと「ここは人間のテリトリー。私らも人間のふりをしろ。エノクミア語を使え。被害報告を」と改めて尋ねなおした。
男性は「失礼致しました。向こう側には離脱者が多い模様です。こちらは兵士が一人転んですりむきました」と返してきた。
どれほど爆発音が激しく聞こえていても冷静な返答を繰り返す男性の落ち着いた様子から、共和国側の優位がハッタリではないことは分かる。連盟政府は完全に圧倒されている様子だ。
状況が問題ないことなど知っていたかのようにユリナさんは表情を変えず、ソファから立ち上がると窓辺へ向かい、縁に手をついて遠くに焦点を合わせた。
「よーし、上出来だ。擦りむいたヤツには破傷風のワクチンと、名誉の負傷への勲章としてグラントルアのヌードバーへ招待して差し上げろ。さて、お待ちかね。ヘッジホッグは準備オーケーか?」