強欲な取引 第二十四話
望む何かを私の口から引きずり出そうと言葉を待つように黙り込んだユリナさんに合わせるように私も口をつぐんだ。
ユリナさんはテーブルにのせた足先を左右にゆっくり動かし、私はその足先の先に見えているユリナさんの顔を見つめたまま、お互いにしばらく黙り込んで時間が経過した。
このまま、またしてもお互いに相手の言葉を引き出そうという無言の応酬が続くのかと思ったが、ユリナさんは「なぁんてな」と茶化すように笑いだした。
そして、「まぁ、そんなのはぶっちゃけどうでもいい。イズミのおかげでな。バカな提案かと思ってたが意外と有効だったからな」と話を続け出した。
「でェ、黄金探し、とまではいかないが、砂漠で何か調査をしているのがバレてる。どうせお前らだろ?
それは別に構わねぇ。だぁが、その記事の内容が気に入らねぇ。
ズルズルズブズブのグダグダで泥沼化してはいるが、確かに私らは連盟政府とまだ和平交渉中ってことになってるわな。
だが、なんで私たちが連盟政府の味方、つーか下僕みたいな内容になってんのよ。
もうわかるよなぁ? そのおたくが言う“事実”ってのを変えて欲しいんだわさ。その力を余すことなく振りかざしてなぁ。
この中でもペン・ストスリアは友学連で売られている。あそこはユニオンの属国のハズなのに、お前ら商会が売ってるってことはお前らの出先機関みたいなもんだろ? スパイ活動ご苦労様だぜ。
そんなに難しいわきゃない。顎をクイッと動かせば出来るんだろ?」
そう言いながらユリナさんは顎をくいくいと動かす仕草を見せた。
なるほど、中間とは言えないほどのマージンで取引をしようというのはこれの費用と言うことか。
今後共和国と北公が商会を介して取引をするたびに利益の半分が商会に入り続ける、だけではなくなるのだ。
このたった一件は共和国が連盟政府のメディアへの介入を許したという前例を作りだし、さらにそれを足がかりに今後何度も繰り返すという意味合いがあるのだろう。
連盟政府市民の興味がメディアへ強く向いている間は、メディアを通して共和国の思想を浴び続けることになる。
侵略的な意図の有無にかかわらず相手の戦意を喪失させるための手段としては尤もな作戦だ。
連盟政府とは戦わない。銃は渡さない。
武器を流して増長させたくないだけではない。ユリナさんの本当の目的はこれだ。これもなのだ。
しかし、前例を作るという点において、マージンが五十パーセントという前例も作られるというのは商会にとって非常にうまみのある話だ。
というのも、今後北公が発展していけば、共和国との商会を介した取引はおそらく無煙火薬だけにとどまらなくなる。