強欲な取引 第二十三話
“ルーア、連盟政府が主導で行う砂漠での調査に追随。連盟政府によるルーア実効支配間近か”
“連盟政府主導で行われる砂漠の調査にルーアが協力。発展途上のルーアに技術提供か”
“ルーア共和国、ストスリア上空を侵犯。大型機が北東方向へ飛行。砂漠での連盟政府と作戦行動か。ユニオン政府・友学連中枢は沈黙”
「……どれもあまり真実とは言いがたい内容ですね。ですが、新聞は事実を報道する媒体では無く、新聞が伝えたことが事実になるもの。
おそらく、出回っている地域の読者はそれぞれに書かれたことこそが真実である、と思っているでしょう。彼らのやり方は褒められませんが、もはや仕方がないことです」
「ときに、交渉で『嘘ではない』といって嘘を忌み嫌うハズの商会が、それを野放しにするのはなんでなんだ?」
「私は部署が違うのでわかりかねますが、記事の内容全てには検閲が入っています。それで引っかからなかったので、そのまま発行されたのでしょうね」
「検閲だぁ? お前らそんなことなんでできんだよ?」
「私たち商会は新聞という“商品”の販売ルートを押さえているので。
商会は、以前の連盟政府におけるシバサキたちの起こした問題以降、新聞を劇や歌などと同じ感情を左右するエンターテインメント部門として扱っています。
ときに事実を作り上げたい場合には干渉しますが、それ以外はただのエンタメでしかありません。
商会がいなければ新聞というエンタメを広く正しい価格で市井に提供するのは不可能なので、私たちはメディアよりも立場は上です。
これがどうかしたんですか?」
ユリナさんは顔を下に向けると肩が揺れ始めた。それも次第に大きくなると、今度は顔を上げて手を叩き笑い始めた。
「いいね、いいねェ。商会サンよ。その力の振りかざし方。傲慢すぎて脊髄がシビれるぜ。
なるほど、“ヴァーリの使途”ねぇ。ヴァーリ、オーディンとリンドの子。バルドルの復讐者、ホズの殺し手。北欧神話……こっちならスヴェンニーたちの神話か。
詳しくは知らないんだが、ヴァーリってのはホズを殺すために生まれて一夜にして成人した司法神らしいな。
自ら司法神の使途と名乗るとは、自分たちのやり方こそがルールとでも言いてぇのか?
それよりも、流通ルールの支配者であらせられる偉大な商会さまが、蹂躙して略奪して、剰え被差別にまでおとしめたスヴェンニーたちの神の名を借りているのはなんでだろうな?」
笑うのを止めるとドアの方をちらりと見た後に私の目を覗き込んできた。
それはかつての商会の特殊部隊の名称がヴァーリの使徒へと変わるきっかけとなったある出来事によるものだ。
ユリナさんの視線の動きは無意識による身体の仕草の一つではない。おそらく、一つ目の事実に気がつき始めているのだ。
その可能性が高いとなると、ここで私は余計なことを言うわけにはいかない。
何か一言でも発すれば、どれほど私が平常心を保ちながら発したとしても、賢いユリナさんは言い方、仕草、音の高低から全てを理解し、自らの中にある疑惑を確信に変えてしまうだろう。
そして、おそらくそれは狂いなく正しく、紛れもない事実。さらに黄金捜索に支障を来しかねないことでもあるのだ。