強欲な取引 第二十二話
「五十パーセントでいこうじゃないか。売り上げの半分は商会の取り分てことだ」
そう言いながらユリナさんは左掌を真正面に突き出したのだ。
売り上げの半分を得られることに驚いて言い返すことを忘れて止まってしまった。
彼女はただ、掌を前に突き出しているだけかと思ってしまったほどだ。
連盟政府内部であり、さらに商会という立場を生かしてもやっと十五パーセント取れるかどうかである。顔の利かない国外ともなれば十パーセントを下回ってもおかしくない。
それにもかかわらず、半分が得られるというのは破格、いや異常なのだ。
ここまで都合がいいとなると騙されているのではないかと思うが、相手が共和国、国家クラスになれば簡単には騙してくることはない。
しかし、騙されるよりも強烈な裏があるというのは確実なのだ。
あまりの利益率の良さに色めき立ってしまった自分を諫め見つめ直した。
だが、目を輝かせてしまった瞬間は間違いなくユリナさんに悟られてしまっている。つとめて自らを落ち着かせようと、深く気を吸い込み鼻からゆっくりと吐き出した。
「売り上げの半分というのはあり得ません。生産費用回収まで犠牲になる可能性があります。それでは中間マージンではなく、搾取です。
かつて公然と行われていた奴隷売買を早期に排除し、売買についてもマニュアル化した段階でマージンを取り過ぎることも規制したので商会では扱えません」
ユリナさんは何も言わずににっこりと笑っている。
そして、ウンウンと頷きながら小さめのハンドバッグの中から紙の束を取り出し、ローデスクに放り投げてきた。
無造作に投げられた紙束は勢いのままに広がった。様々な大きさのわら半紙の束には小さい文字が所狭しと書き込まれている。見たところ、どうやらそれは新聞のようだった。
一つ一つ目を移しながら見ていくと、“オストラント”誌、“アルカナタイムス”誌、“ペン・ストスリア”誌、その他何部かだ。どれも全て商会の販路を経由している地方紙だ。
ユリナさんはローテーブルに足を上げて、新聞を踏みつけながら顎を動かした。
「こりゃ、見りゃわかるよなぁ?」
「新聞ですね。どうかしたのですか?」
「いつぞやの古典復興運動でメディアの力を思い知った連中があちこちで地方紙を作ってたんだわさ。
こんなかには連盟政府、友学連のどっちの新聞もある。
支配者の立場で内容に差が出るのは分かるが、印刷技術がチンケだからか同じ会社でも売ってる場所で書いてあることが微妙にズレてる」
そう言うとペン・ストスリアを取り上げた。一部だと思っていたが広げると二部に分かれた。右手と左手でそれぞれに持ち上げて表紙をこちらに向けてくると、文字の配列にズレがあり内容が違うようだった。
「何ですか? 気に入らないから止めろというのですか?」
「ちげぇちげぇ。まぁとりあえず読んでみーな。大見出しだけでいーから」
踵に踏みつけられている新聞を左右に揺するように動かしながら強引に引き摺りだし、捻るように踏まれ皺の寄った新聞を伸ばしてその一面に書かれたやや大きめの文字を読んだ。




