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強欲な取引 第十八話

「さっきからイマイチ話が逸れ気味だ。戻すぞ。

 曖昧曖昧と連呼したが、曖昧じゃいけないものもある。

 曖昧か否かの線引きが曖昧と主張するのは他人。自分たちの都合が合わないと曖昧という曖昧な言葉で不寛容なまでに他人の矛盾を突こうとする。

 あくまで私らにとって曖昧ではいけないものは、今の状況で言えば、兵士の人数ではなく、一人一人の持つ兵器の数だ。

 共和国軍は兵士のタマの皺の数まで数えてんだよ。弾丸の数を把握してるってことは、本体の数までもきちんと数えてるのは言うまでもねぇよな。

 そこで、例えばの話、例えばよ。もし、ここで銃が一丁無くなっちまうようであれば、私らは商会のせいで無くなったと言っても嘘にはならないんだよ。

 何せ連盟政府のあっちゃこっちゃの自治領は血眼で新技術欲しがってるのは、モンちゃんからよぉく聞いてる。私のアソコと同じで小さいこの耳でな。

 砂漠のタヌキがキ○タマの皮に包んで持ってっちまったなんて言い訳はもうできねぇ時代だ。

 紛失が報告されていたのが発覚した、というのをメディアは読者の食いつきの良い政治不信ネタに持ち込む為に管理不足ばかりを喚くだろう。

 それからも誰が盗んじまったんだろうかとかで盛り上がるよなぁ? 

 だが、それはどうでもいいんだよ。止めることは可能だが、止めはしない。

 むしろ喚いてくれればくれるほどに銃が無くなったことを聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)が知るところになる。

 その近々で商会が謎の最新兵器のデモンストレーションなんかしたなんて話がでりゃなぁ。

 そのとき領主どもには、どこからの横流し品かなんてヤバすぎて言ってないんだろ? 北公が商会に渡した銃は番号管理から外れたヤツだろ。そうでなければ足が付くもんな」


 商会に商品として回された北公の銃は非正規で足が付かないことを利用し、そこへ共和国の銃が無くなったという事実を作り上げ、領主たちとの取引に使われた銃は北公から譲り受けた物ではなく、共和国から盗まれた物にすげ替えるつもりなのか。

 ユリナさんは共和国軍部省長官。銃の管理は全て彼女の手の中。無くなったことを事実にしたり、紛失ないし破損の報告日時を前後させたりなど容易い。

 今まさに行われている戦闘で銃が紛失しても、デモンストレーション前の日付にするなど簡単だ。


 日付の前後という多少の矛盾をはらむものの、デモに参加した領主たちは口を閉ざすだろう。

 デモに参加できたのは領主のみ。私たち商会は聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)といえど徹底的に閉め出した。それが多かれ少なかれ、領主たちに後ろめたさを植え付けたからだ。


 そして、部外者を徹底的に追い出した結果、聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)はデモの内容を全く把握できていない。

 彼らが明確にアスプルンド零年式二十二口径雷管式銃の試射を目撃したわけではない。

 会場の外で発砲音を聞いていたとしても、私のように銃声だけで種類を聞き分けられるほどに聞き慣れているわけでもない。

 つまり、デモの事実を嗅ぎつけていて、最新兵器というのが銃であることまでの判断は出来ても、それが何処の銃であるかまでの判断できないのだ。

 そこへ来て疑惑への関与を匂わせるような共和国の新聞記事が来れば、彼らが優秀であればあるほどに深く読まれてしまう。


 秘密秘密に行おうとして関係者に情報を過剰に与えなかったことを逆に利用されるのだ。



 結論を先延ばしにして私がここで出て行けば、北公との関連性は暴露されない。共和国は北公を該当者から追い出すことで円満に火薬の取引を行える。


 一方で、取引をしないという結論を出してしまえば、連盟政府に疑心暗鬼をもたらして北公に勝利をもたらす。


 しかし、どちらにしても商会は終わる。そんな無責任なことは出来ない。

 受けるしか、ないのか。


 だが私は往生際悪くユリナさんに噛みついた。

 

「盗まれたと言う話になったとしても、いつ誰が盗んだかということよりも、何処で、ということから共和国軍が人間側の領土に踏み込んでいたことがバレますよ。自ら戦争を起こしかねない領土を侵犯したと逆に責められます」


聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)は共和国のメディアと違ってそっちにも注目するだろうな。

 だが、そうもいかねぇのが残念なとこだぁ。その人間のテリトリーを取り仕切る連盟政府様がお決めになったルールでは、東の砂漠ってのは誰のもんでもない禁足地なんだろ?

 そこで互いの面にクソを塗りたくり合っても誰も気にもしやしねぇよ。禁足地だっつってんのに国軍が自ら突っ込んだなんて、記録も残らねぇンじゃねぇの。

 まさか、誰のものでも無いのは確かだが、自分のものでもあるとか、成り立ってない意味不明な屁理屈いきなりごねるワケはないよなぁ?」


「ユリナさん、あなたは連盟政府との関係性において和平派を主張し、それでシロークさんを金融省長官に就かせたのではないのですか?

 にもかかわらず、人間が自らのテリトリーだと思っている場所で立場を偽って戦闘行為だなんて。仮に砂漠は人間のテリトリーではなかったとしても、誤解を招くようなことはするべきではありません。

 ましてあなたが共和国内でやろうとしているメディアへの情報操作では、結果的にエルフの対人感情を負へと導くことになりますよ。和平派としてそれは立場を危ぶめる行為だと思います」


「おおう、そうとも。私は穏やかなシロツメクサの草原に住む平和主義者。お花と紅茶とピーナッツバターが大好き。

 でも、それは維持するのがとっても大変。みんなが同じ考え方ならハッピーだが、そうでもないんでね。だから、アスプルンド零年式二十二口径がいるんだよ」


 ユリナさんは頷いている。ただ感慨深く頷いているのではない。もう彼女の中で取引は成立してしまっているかのように自信が溢れている。

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