強欲な取引 第十七話
ユリナさんは姿勢を正し、ソファに再び寄りかかった。
「ちょうど良い。今ドンパチやってるヤツらの話でもしようか」
止めに行かなければいけない私を引き留めようとしている。しかし、ここで向かってしまえば全てが不利な方向で話を進められてしまう。
「戦闘ってのは命の数までごまかせちまう。おたくらのよくやるミッシング・イン・アクションてやつだ。おっと、マイアミでもジミー・ア○ャーでもじゃねえぞ。それがどういうことかわかるか?」
「商会の行為が正しいとは言えませんが、必要だからやっているのです。あなたたちも国家ならそれくらいはしていると思いますが?」
「必要だから無能な元勇者を狩ってるってワケか。……まぁ確かにあいつらぁクズばっかしだったから確かに必要だわな。
でも、厄介なヤツは殺すんでなくて、勝手に死んで貰うのが一番ありがたいと思わないか?」
「そんな無責任な。自分たちで手を下すからこそ、的確に行えるのです。誰であれ、命ある者には敬意を払うべきです」
「命ある者への敬意ねぇ。殺しといて何を今さら。あー、その話は本題じゃねぇから終わりな。
的確に処理をするなら自分たちで手を下すのは尤もだ。だが、誰がやったのかって話になると色々面倒ごとが起きる。
おたくら自称文明化してる人間どもの間で情報が伝わるのは、噂程度でしかないかもしれない。
だから商会のヴァーリの使徒とか言う、いるんだかいないんだかわかんねーヤベェ部門が直接どんだけぶっ殺しても、やり方さえ間違えなければ噂くらいにしかならない。人の噂も七十五日ってな。
しかし、なぁ、私ら共和国はキューディラだけでなく、全国紙も電信もある。あっという間に話が広がるんだよ。
噂が村で燻ってた翌日の朝には全国に新聞でぶちまけられる。
そんなんで国家が直接不都合な誰かを殺せばたちまち非難の的だ。
長官派閥支持メディアにすら攻撃されちまうだろうな。
だから、知らんうちに死んでくれたら、こっちもわざわざ死んだこと以外把握しねぇよ。死んだ記録はあっても消した記録は残ってないんだぜ」
「そんな曖昧で良いとは思えません。死んだことになっていて、実は生存して復讐を企てているかもしれませんよ?」
「曖昧、でいいんだよ。曖昧だからいいんだよ。公的に死んでくれさえすれば、後は死体でもしゃべれなくすればいいだけのこと。そういう後が無い死体はよく喋るから目立つしな」
ユリナさんは小首をかしげ歯を見せて笑ってきた。
政府がその後直接殺したとしても、死人は殺せないということか。都合の悪い者の処刑を治安維持と言ってこれ見よがしに行えた帝政よりも遙かに質が悪い。
だが、確かに私たち商会も秘密裡に幾人も殺してきてはいるのだ。
故に、共和国の、今まさに目の前にいるユリナさんを卑怯だとは糾弾できない!
だが、私の美学ではどうしても許してはいけない。怒れる立場でも無い私は、私自身の美学というエゴに苛まれる。