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強欲な取引 第十四話

 しかし、顔ぶれを見れば分かるとおり、誰しも非常に偏っているのだ。


 カルルは北公独立に際し尽力したスヴェンニーへの偏重傾向があり、戦いにおいては最新兵器を過大評価している。

 ルカスはそもそもカルデロン(商売敵)であり、商会ですら押さえつけられないほどのえげつない狡猾さがある。

 イズミさんはあちこちに広く顔は利くものの、将来の地盤たる自らの領地や土地を持たないほぼ浮浪者、そして僅かな犠牲すら嫌い、矢面に立つのも苦手というのは性格的に致命的。

 最近では、首都近郊の領地持ちで目立ちたがりと言う点だけで注目されたシバサキまでその候補に挙がるという混迷ぶりを見せている。(商会によるコントロールのしやすさという点においての彼の評価は異様に高い)。


 次世代無き幕間での覇権国家壊滅は、大いなる混沌の時代、それも創成期にすらその名を刻むほどに長い歴史を持つ商会ですら未だかつて経験したことのない時代への幕開けなのである。

 それが暗黒時代なのか、はたまた黄金時代なのか。それは開けてみなければ分からないが、大いなる混沌が訪れるのは確実なのだ。


 何故、ここまで世界は潮流を変えたのか。


 脂汗が額から浮かび上がりそうで、垂れてしまいそうなそれを拭う為に顔を掌で擦ってしまいたい。

 腹の底がきりきりと音を立てているような、我慢が出来ないほどの苦痛だ。


 しかし、取引の場において余裕のない仕草は命取りだ。気を取り直し顔を上げた。


「ユリナさん、あなた、だいぶ変わられましたね」


「私ゃ何も変わってねぇ。私の戦場が自称勇者数人の対人戦やらクソザコ魔物狩りだとかしょーもねーことから、国家戦略規模にデカくなっただけだ。

 ロリババァ、テメェも変わらないな。相変わらず強情で、平静な振りして意地でもマウントとろうとしやがる。

 にしても、あの頃かぁ、懐かしい。私の仲間はみんな個性的だったな。クソ詰めマッチ箱、脳筋金髪ゴリラ、ヤリ○ンクソ勇者。そして、マウントチビジャリ商人。

 そんなお前らのおかげで今の私もいるんだがな。

 だが、ノスタルジーは反省材料ぐらいの価値しかない。大事なのは今とこれからだ。

 マウントチビジャリ商人サマはイズミみたいにチョロくないから、ちぃっとばかし手荒に話をさせて貰う。年上の方には敬語がよろしおますかなァ?」


 ニヤニヤと挑発するようにそう言うと、「あぁ、でもなぁ」と視線を上に向けた。

 首をぐるりと回して顔を下を見ると、左掌を猫のように丸めた。親指で人差し指や中指の爪をいじり始めた。


「もし何か北公に頼まれちまったらどうしようかなぁ。

 私ら共和国は北公と国交があるわけじゃないが、対話をしないと言うつもりはないからな。

 ジューリアもだいぶ世話になったみたいだし。未来の平和のためにお話ししましょうってのは大歓迎だ。そこで頼まれちまったら仕方ねぇ。

 商会のヤツにこんなこと言ったとこで仕方ないか。別に何かしたわけでもないから、関係ないもんな。

 それにカルル・ベスパロワのお膝元の戦士たちは血の気が多いのが……。お」


 しかし、ユリナさんの話の途中で左腕に付けていたキューディラが点滅し始めた。どこからか連絡が入ったようだ。


 左腕を返してキューディラを確認すると、口を開いて驚いたような表情になった。

 そして、「あ、ごめん。緊急だとマズいから出てもいいか?」と私に尋ねてきた。


 これはチャンスだ。すかさず「どうぞ」と右掌を指しだした。


 ユリナさんは、悪ぃなぁと右手を挙げると立ち上がり、背中を向けて部屋の隅に歩いて行いった。やや前屈みになり操作をして相手と話し始めたのか、うんうんと頷き始めた。


 ユリナさんの思う方向へ話が向けられそうになっているまっただ中を強制的に中断するようで、実にいいタイミングだ。これで仕切り直しが出来る。


「ナァニィィー!? そりゃ本当かー!? そらやっべーなぁ! わはははは!」


 逃げるための糸口を掴み落ち着き始めていたが、突然、ユリナさんのわざとらしいほど大きな声が耳を切り裂いた。

 やばいと彼女は大声で言ったが、裏返っているわけでも上ずっているわけでもなく、そこに焦りの様子は一切無かった。

 それどころか、まるでその連絡を待っていたかのような、焦燥とは真逆に位置するある種の歓喜がその声には混じっていたのだ。

 ユリナさんは振り返るとソファの方へと戻ってきた。


「おっとっと、失礼。思わず下品な声が出ちまった。だが、朗報だぜ? 今砂漠の近くでうちの部隊と連盟政府の魔法使いさんたちが早速一戦やらかしてるそうだ」


「なんですって!?」


 落ち着きを取り戻し始めたはずの心拍は再び飛び上がらされ、強烈な一撃の後には不整脈を自ら感じるほどに心臓が動き回った。

 だが、ユリナさんは動揺を必死で隠す私を見つめると、予めそうなることを分かっていたかのように話を始めた。

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