強欲な取引 第十二話
「私らも連盟政府もカネばっか喰うドン詰まりの話合いも飽き飽きしてた頃だ。
早いとこ終わらせてぇのはお互い様のはずだから、うっかりボロッと口が滑っちまうかもしれねぇなぁ。
硝石が採れるどこかの自治領が商会経由で北公に協力してるって情報を“内乱鎮圧への極秘協力”とか言う和平交渉における手札のツラを被せて無償で伝えりゃあ、連盟政府の連中は鬼の首でも取れたかのように喜ぶぜ。
ソイツさえ吊るし上げれば、北公には硝石が行かなくなるってな。
お互いの為のリークによって和平交渉にケリがつく。しかし、回り回った結果は如何なものになるのやら。
量やら質やらはともかくあっちこっちで採れる連盟政府内のどこの自治領とまでは言わねぇ。あくまでリークするのは不透明な情報と取引の証拠だけ。
商会の行ったデモンストレーションに参加した自治領は現存する自治領のほぼ全て。
硝石鉱山の無い自治領は最新技術が買えない腹いせにチクり合戦。名乗りを上げた自治領はいもしないユダを探して、ユダ候補たちで罪のなすりつけ合い。
そうなるとどうなるか。北公の硝石枯渇が先か、連盟政府の自滅が先か。私の見立てじゃ、北公は独立を認めさせるどころか勝っちまうかもな。
それで終わっちまうのは連盟政府だけじゃなくて商会もだろうな。
後悔して銀貨三十枚を北公に返そうとするのは、あんたら商会自身かもな。そのときは一体どんなイチャモンつけるんだか。
そうなって欲しくないからおたくを今日ここに呼んだんだけどなー。大好きな商会が潰れちゃうのはなー。んー」
「あなた、まさか内部不和を起こす気ですか。最悪ですね」
「勝手におっ始めたケンカを人のせいにすんなや。せいぜい連盟政府内のドンパチにゃ気をつけるこった」
連盟政府に協力するふりをして内部を不信に陥れるというのは最悪の作戦だ。
今の連盟政府はユリナさんの言うとおり、紛れもなく死に体の集まり。
度重なる離反と戦争により、政府内部には不信が既に蔓延っている。
そこに裏切り者がいるという情報が入ってくれば信憑性の高さ低さにかかわらず、芽吹いていた不安の芽を大きく成長させる。
戦争の経験の無い領主たちは、ユニオン、友学連、それから北公が敵対的に離反した故に、どれほど交渉が難航しようとも和平交渉をし続けている共和国に対して態度を軟化させ、やがては和平条約を結ぶだろう。それも共和国が有利な立場で。
共和国としては、弱り切った国を相手にするのであるならば暴力ではなく、自ら瓦解させたほうが人的にも資源的にも自国への被害を最小限に抑えられる。
さらに現在行われている和平交渉を連盟政府が弱り切った末に共和国に歩み寄ったという勝者のシナリオの一幕へ誘導することが出来る。
共和国の四省は和平派が占めており、先の選挙で和平派として候補者を支持したユリナさんも戦闘での決着ではなく、連盟政府の歩み寄りによる和平締結を実現したとしてさらなる支持を得ることが出来る。
和平という最終目標においては、私やイズミさんたちの目指すものは同じかもしれない。しかし、それはあまりにも形が異なる。
イズミさんたちのそれはまだはっきりとしていない。おそらく彼はまだぼんやりとしか描いておらず具体的ではない。