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強欲な取引 第九話

 しかし、ユリナさんは私の浮いた腰などお構いなしにポケットをまさぐり、そこから何かを取り出した。取り出された掌がゆっくりと開かれると、思わず固唾を飲み込んでしまった。

 そこにあったのは小さな金属の塊だった。円筒形の先にブラスの光沢のある円錐形が付けられた四インチばかりのものだ。

 ユリナさんはそれを見せつけるように人差し指と親指で立てるように持ち上げると形がはっきりした。

 それはどう見ても弾薬なのだ。


「メイドの話を主人が聞くってのは、ただの報告だけじゃないんだよ。

 ジューリアがセシリアに銃の扱いを訓練することになったって報告と一緒に、弾薬を一発無言でデスクに置いていった。

 それから、ジューリアとちっこいのがパンパン銃を撃ってるのを、軍部省長官のこの私が見過ごすわけもねえ。

 発砲音からして共和国のよりデカくて重いのなんのって、気になって仕方なかったぜ。

 さすがにガキの玩具をぶんどれば、親父(イズミ)がキレて怒鳴り込んでくるから知らんぷりしてた。

 だが、その後、北公の白狼が暴れて、ジューリアが一時的に預かることになったのはありがたいこった。

 そのときも弾を何発か貰った。ま正しくは、狙撃に動揺したセシリアが落としてったのを拾ったんだがな。

 結構な数になったぜ。おかげで火薬成分の追加検証も出来た。より北公のモノに近い火薬に近づけられた。

 ジューリアには残りの少ない手持ちで白狼狩りをさせちまったが、あいつぁスナイパーだ。もともと馬鹿みたいに弾を使うようなヤツでもない」


 掌に握り直すとぽんぽんと弄ぶように二、三度投げた。そして、「見るか?」と言うと同時にそれを放り投げてきたのだ。

 右手を挙げて受け取ると、ユリナさんのぬくもりの残った金属の生暖かい感触が掌に伝わった。

 もったいぶることなく私に投げ渡してくるということは弾薬は、共和国の手元にあるものは本当にこのたった一発だけというわけではないようだ。


「数を数えてないってのはどっかに一発紛れても分からないってこった。

 ジューリアの話じゃ、今まさにその手の中にある最初の一発は車ン中で見せてくれたのを持ち主に返し忘れたそうだぜ、うっかりな」


 掌を開き、弾薬を注意深く見た。抽筒板の後ろを見たとき、息が止まるような感覚と脇や掌が縮こまるような感覚に襲われた。

 そこにヘッドスタンプは見当たらない。アスプルンド零年式二十二口径の弾薬であることが確定的になったのだ。

 弾薬を乗せていた掌は汗が光り始めてしまった。震えだしそうになった手を誤魔化す為に弾薬を強く握りしめた。


「基剤のニトロセルロース濃度が八十パーセント前後でだいたい同じだけど、共和国のよりも緩燃剤が少ないらしくてね。

 確かに、こんなの共和国の銃で使ったら一発でオシャカだわ。ま、穴の大きさは同じでも、そもそも長すぎてこめられないンだがね。

 それの調節が面倒くさいんだけど、作ろうと思えばもう作れるの。お話がつけば専用の生産ラインを確保すれば良いだけだしなぁ。

 なんならカルル閣下をご招待して生産ラインを直接見せて差し上げても良いんだぜ?」


 何から何まで抜け目がない。

 ユリナさんが言ったことが全てハッタリだとしても、それは現時点での話。

 まず、ユリナさんが弾薬を見せてきたことで、共和国が北公の火薬を入手しているのは確定事項。

 エルフたちは魔法を持たない分、技術力とマンパワーをその何倍も投入して魔法という脅威に追いつこうとする。その研鑽は昼夜を問わず行われ、絶えることはない。

 現時点、今まさにこの瞬間というで一点において弾薬を作れると豪語しているだけであっても、明日はどうなるか。いや、次の一瞬はどうなるか。瞬きさえも恐ろしい。


「いいじゃねぇかよ。お得意様のあんたら商会を仲間はずれにゃしてねぇんだからさぁ。取引しようぜぇ?」


 いつの間にか背後に回っていたユリナさんは肩に腕を回してきた。そして、首をたぐり寄せるようにすると、頬をすりあわせてきた。

 驚くまもなく襲われたヒヤリとする感覚に、自分の頬が追い詰められ熱くなっていることを悟った。完全にユリナさんのペースだ。

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