強欲な取引 第六話
ユリナさんの言い分は、北公は新興国でまだ見定めている途中ではあるがムーバリの扱いを見れば分かる通り非常にエルフ寄り、すなわち共和国寄りとも考えられる、と言うことだ。
そして、それは利害の一致での交流を行うユニオンよりも近いものである。現に、ユニオンは難民エルフの帰還は行っていても、帰化は行っていない。
それ故に、共和国側は明確に敵対的であると宣言をする予定もなく、今後も敵に回すつもりは今のところない。
さらに言えば、物量や軍事力他において圧倒的優位な共和国への敵対的意思表示は、連盟政府との戦争中である北公にとってリスクが大きすぎる。よって北公から動くことはありえない。
しかし、一方の連盟政府は、和平交渉は未だに途中であり尚且つそれも難航中であり、敵対関係を完全に解消したわけではない。条約や停戦などの書簡にサインをしてはおらず、まだ戦争中ということになる。
「連盟政府に渡るのを防ぐつもりですね」
膝の上に両腕を載せて組み、さらにその上に顎を乗せて視線の高さを合わせてきたユリナさんに負けじと言い返した。すると、ユリナさんは視線を合わせたまま両眉を上げた。
「当たり。ってか、わかってたよな。
そらお前、時代遅れでガバガバガバナンスの魔法使いさんたちに危ないモンわたすわけにいかないだろう。
尤もらしい理由が欲しいなら“国防上の重大な懸念”ってやつだよ。
技術が一番発達するのは戦争だ。もちろん、それで無くても技術は発展はさせられる。
だが、なんで戦争が一番か知ってるか? 命がけだからだよ。連盟政府サマも命がけになられると困るからな。
たーいえ、まぁ、実際のところ、連盟政府には北公みたいに器用なヤツもいなければ、急ピッチで事業を進められるカルルと肩を並べられるほどのカリスマもいねーから、そうでもないんだけどな。
せいぜい焦ってバラした後に直せなくて、ぶっ壊したままで終わりだろうさ。たはーっ、もったいね」
ユリナさんは額を右掌で軽く叩き、しかめた顔をした。
「私は連盟政府に売ろうとしたわけではなくて、硝石を売ってくれる方の募集をかけました。もう顧客の候補は締め切ったので残念です」
「なら話がはええ」
そう言うとユリナさんは再び立ち上がった。そして、左手の指を弾いて鳴らすと、そのまま人差し指を私に向けて来た。
「うちが硝石どころか無煙火薬を扱えるように手配してやるよ。そのハジキと引き換えにな。
売買するモンが違うんだから、全く別の新しい売買契約だぜ?
商会は仲介料でウハウハ、こっちが作る手間まで負ってやんだから北公もウハウハだろ。
みんなで仲良く中間マージンでウハウハワキワキしようぜ? 何なら契約違反の違約金もウチが出してやんよ。
ぶっ壊して終わりなんてもったいないだろ? キチンと扱えるヤツにうっぱらったほうが商機があると思わねぇか?」
「お断りしますよ」
間髪入れずに私は拒否をした。ここまで追い込められても、私にはまだ取引の結論を先延ばしにできる材料があるからだ。




